Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: 春画資料

BnF. Département des manuscrits. Japonais 210 (3) - 翻刻

BnF. Département des manuscrits. Japonais 210 (3) - ページ 14

ページ: 14

翻刻

俯(うつぶ)きて物(もの)もいはず。吉光もまた今(いま)さらに。よしなきとをしてけりと。男(をとこ)ながらも 何(なに)とやら。後(うしろ)視(み)らるゝ心地(こゝち)して。音勢(おとせ)が背(そびら)へ手(て)をうちかけ。千話(ちわ)も口舌(くせつ)も出(いで)ばこそ。 弱(よは)り給へど女子(をなご)を俱(く)し。怯(おそ)るゝ態(ふり)を視(み)するならいよ〳〵音勢(おとせ)が怖(おぢ)もせんと。自(みづから)心(こゝろ)を 励(はけ)まして。四方(よも)に眼(まなこ)を配(くば)り給(たま)ふ。現(げ)にそのむかし業平(なりひら)が。二條(にでう)の后(きさき)の凡人(たゞうと)にて。在(おは)せし折(をり)から 竊(ねすみ)出(いだ)し。芥川(あくたがは)の辺(ほとり)にて。雨(あめ)ふり雷(かみ)さへ鳴(なり)はためき。弓胡簶(ゆみやなぐひ)を自(みづか)ら負(おひ)て。戸口(とぐち)にたてりし その夜半(よは)も。思(おも)ひ出(で)られて物凄(ものすご)く。心(こゝろ)も滅(き)ゆるばかりなるに。猶(なほ)雨風(あめかぜ)の小止(をやみ)なく。一陣(ひとしきり) なる暴風(あらきかぜ)。吹来(ふききた)りしが椋(むく)の樹(き)の。堂(だう)の方(かた)にさし覆(おほ)ひし。枝(えだ)をぽつきと吹折(ふきをり)て。軒端(のきば)へ かけて摚(だう)と隕(おつ)る。その物音(ものおと)に駭(おどろ)きて。音勢(おとせ)は嗟(いな)やと吉光(よしみつ)に。力(ちから)を究(きは)めて抱(いだ)きつく。 此方(こなた)も同(おな)じく肝(きも)を消(け)し。音勢(おとせ)を直(ひた)と抱(いだ)きしめ。ほつと一息(ひといき)顔(かほ)と顔(かほ)。暫(しばら)くありて ざわ〳〵と。蔀(しとみ)を伝(つた)ひ地(ち)に落(おつ)るは。樹(き)の枝(えだ)なンどを吹(ふき)をりしと。心(こゝろ)づきては怖気(こわげ)も失(う)せ。始(はじ)め て匂(にほ)ふ伽羅(きやら)の香(か)は。音勢(おとせ)が髪(かみ)か白粉(おしろい)の。蘭麝(らんじや)の薫(かほ)りも憎(にく)からず。えならぬ心地(こゝち)にむく むくと。亀頭(あたま)を揚(あぐ)る若(わか)ざかり。吉光(よしみつ)はそのまゝに。音勢(おとせ)を膝(ひざ)へ引(ひき)あけて。物(もの)をもい                                下ノ一