翻刻
を申せば。吉光(よしみつ)はほゝ笑(ゑみ)み給ひ〽朝(あさ)まだきのおしかけ客(きやく)。さこそ便(びん)なくおもふらめど
忍(しの)びのうへのまたしのび。下部(しもべ)の他(ほか)は女子(をなご)ども。聊(いさゝか)も気(き)をおかず。近(ちか)う参(まゐ)つて四方八方(よもやま)の
噺(はな)しでもして聞(きか)せやれ。去来(いざ〳〵)々々と懇(ねんごろ)に。宣(のたま)ふほどに傔仗(けんぢやう)は。然(しか)らば御免(ごめん)と進(すゝ)みより。
いとおもしろき花(はな)のさま。君(きみ)にはいかゞ視(み)給ふらむ。夜半(よは)の嵐(あらし)に遺(のこ)りなく。もて参(まゐ)りし歟(か)と
思(おも)ひしに。さのみには散(ちり)も失(う)せず。まだその詠(なが)めの竭(つき)ざるは。君(きみ)が来(き)まさん准備(ようい)にか。草木(くさき)は
非情(ひじやう)なりと言(まう)せど。情(こゝろ)なくてやかくあるべき。と申せば御機嫌(ごきけん)麗(うるは)しく傔仗(けんぢやう)いしくも言(まう)し
たり。さて伝(つた)えきく其方(そち)が女児(むすめ)。小曽女(こそめ)とかやは風流(みやび)にて。敷嶋(しきじま)の道(みち)を好(この)むとやら。知(し)るごとく
和哥(わか)の道(みち)は。この身(み)にも大好(だいすき)にて。哥(うた)よむ人と聞(きく)ときは。何(なに)やら床(ゆか)しく思(おも)ふなり。けふ爰(こゝ)へ
来(き)た甲斐(かひ)に。小曽女(こそめ)にもあひ。その詠草(えいさう)をも。みまほしく思(おも)ふなりと。仰(おふせ)にはつと傔仗(けんぢやう)が
〽仰(おふせ)までもいはず。頓(とく)お目見(めみへ)を願(ねが)はんと。存(ぞん)じては居(をり)ますれど閨(ねや)の姿(すがた)のみだれ髪(がみ)。それとり
揚(あげ)てと心(こゝろ)ならずも。遅(おそ)なはるにて侍(はべ)るやらん。まず寛々(ゆる〳〵)といらせ給へト兎(と)かくするまに
御酒(みき)殽(さかな)。朝餉(あさげ)の准備(ようい)もとゝのひて。婢女(はした)が運(はこ)ぶを傔仗(けんぢやう)がうけとりて御前(ごぜん)へも持(もち)いで
下ノ四