翻刻
の衣裳(いしやう)。二人(ふたり)の婢女(げぢよ)もたゞきよろ〳〵と。立騒(たちさは)ぐのみ詮方(せんすべ)しらず。浅香(あさか)は遥(はるか)
次(つぎ)の間(ま)にて。一礼(いちれい)すれば吉光(よしみつ)君(ぎみ)〽不意(ふい)に参(まゐ)つて最大(いかい)世話(せわ)。何(なに)かの事 佐栗(さぐり)から。逐(ちく)
一(いち)に聞(きい)たであらう。苦(くる)しうない近(ちか)う倚(よつ)て浮世(うきよ)ばなしをして聞(きか)しやれ。けふ
はのどかで風(かぜ)もなし。庭(には)の手入(てい)れが届(とゞ)くとみえて。花(はな)もよう咲(さ)き植樹(うゑき)の刈込(かりこみ)。
小(ちい)さくても見所(みどころ)あるト讃(ほめ)給へば恐(おそ)れ入(い)りおづ〳〵彼所(かしこ)へ膝(ひざ)すりよせて。最前(さいぜん)
佐栗(さくり)が指図(さしつ)もあれば水屋(みづや)よりして把出(とりい)だす。水(みづ)さし茶碗(ちやわん)棗(なつめ)の茶入(ちやいれ)。茶筌(ちやせん)茶杓(ちやしやく)
や蓋置(ふたおき)まで。法(ほふ)の如(ごと)くに飾(かざ)りたて《割書:浅|》〽憚多(はゞかりおほ)くはごさりまずが未熟(みじゆく)な手前(てまへ)の薄(うす)
茶(ちや)一(いつ)ぷく。さしあげましたうござりますが《割書:光|》〽イヤこれは奇妙(きめう)〳〵庭(には)のかゝり住居(すまゐ)
の様子(やうす)。主人(あるじ)は大(おほ)かた風流(ふうりう)と。察(さつ)したに違(ちが)ひない《割書:浅|》〽ホゝゝ風流(ふうりう)も。風雅(ふうが)もはるか
前(まへ)の事(こと)。今(いま)はしがない寡婦(やもめ)のくらし《割書:光|》〽寡婦(やもめ)々々(〳〵)と言(い)やつても。みれば花香(はなか)もまた失(うせ)ず。さ
かり久(ひさ)しきしら菊(きく)の。名残(なごり)の匂(にほ)ひなつかしく。慕(した)ふて来(く)る蟲(むし)もあらう《割書:浅|》〽これは〳〵御(ご)
前(ぜん)さまとした事か。こゝへ並(なら)べた茶器(ちやたうぐ)歟(か)。太刀(たち)刀(かたな)ではあるまいし。なんぼひねつたもの
上ノ十