翻刻
数寄(ずき)でも。古(ふる)いものが宜(よい)とつて。慕(した)ふはおろか此方(こつち)から。何卒(どうぞ)遣(つか)つて下(くだ)されとの。恃(たの)
みもきゝ人(て)はございません。女は盛(さかり)の短(みじ)かいもので。二十前(はたちまへ)から三十 前後(ぜんご)それが過(す)ぎては
悪口(わるくち)にも老婆(ばゝあ)〳〵といひ立(たて)られ。果散(はか)ないものでございますト噺(はな)しのうちにはや沸(たぎ)る。
湯(ゆ)を汲(くみ)とりてさわ〳〵と。たてし薄茶(うすちや)の服加減(ふくかげん)。まう一服(いつぷく)と望(のぞ)まれて御意(ぎよい)に入(いつ)てか冥(めう)
加(が)なことと。また立(たて)かけるその折(おり)に。御指揮(おさしづ)うけて持出(もちいづ)る。台(だい)に乗(の)せたる綿端物(わたたんもの)。佐(さ)
栗(ぐり)は浅香(あさか)にうちむかひ〽これは御前(ごぜん)のおみやげもの。頂(いたゞ)かれたが宜(よか)らうトいはれて
浅香(あさか)は身(み)をしさり。御礼(おれい)申せば吉光(よしみつ)君(ぎみ)〽まず是(これ)は今日(けふ)こゝへ。尋(たづ)ねて来(き)た験(しるし)ばかり。用(よう)に
たゝば身(み)も歓(よろこ)ぶ。これ佐栗(さぐり)いひつけた。ものが出来(でき)たらはやう是(これ)へ持(もつ)て来(き)やれ《割書:佐|》〽ヘイ畏(かしこ)まり
ましたト館(やかた)よりして准備(ようい)ある。御酒(みき)御殽(みさかな)も幾種(いくいろ)か。それ〳〵の器(うつは)へ盛(も)りてこの家(や)
の婢女(げぢよ)をも手伝(てつだ)はせ。所狭(ところせき)までおきならふれは。吉光(よしみつ)は杯(さかづき)とりあげ《割書:光|》〽花(はな)より団子(だんご)の
喩(たと)への通(とほ)り。月花(つきはな)を詠(なが)むるにも。酒(さけ)がなくては興(きやう)がない。コレ浅香(あさか)とやら酒(さけ)はどうじや。
ナニ不調法(ぶてうほう)とは嘘(うそ)であろ。みかけからして酒飲(さけのん)だら。どうやら元気(げんき)で面白(おもしろ)さう。サゝ飲(のん)たがよい身(み)が