翻刻
一門前町にて波嘉といふ人戌亥屋某銘々弐三人連にて
参詣し此変にあふたれとも辛して免かれ帰る
一新川七本松の者町家相応身柄の人の宰領に頼まれ
参りたる処荷物路銀不残焼失主人初頼人を松本て
留め置夜を日に継て馳かへり路用なんと調へ直に取て
かえし向ひに走りし由
一長者町皆御村頼立斎彼夜にあひ身ハのかれたるをハ
当地にてハ死亡せしといひしか無恙よし音信あり
一上京の人ありて話に其日地震ハあれとも知らざる者も有とぞ
一駿河町の辺脇部広吉か母同勢三四人にて参詣し廿四日
夜彼地へ着く同伴の人は本堂に過夜せしに広吉母と
宿坊に泊り既に床に臥したる比大地鳴動しこハ地震と
思ふや否はや家居倒れりつれとも怪我ハせさりしかど
驚き周章たゝくらき所をさぐりまはしからうして木の
破れたる所より先首はかりハ出されとも体の出兼たるを兎
角して這ひ出たれハ屋根の上也くらさハ暗し婦人のこと也
踏も習ハぬ萱屋のうへを伏して横につたいたる程に瓦の端
の処に至りたれハ材木を結たる所あり是へ乗移りてやうやう
と地へ下り立たり供の男も同しく続て出たるか屈竟にて
瓦の上を走るにざくざくと瓦の落る音して辷り落たり男
ふたりといふ声に怪我せしならんと母は思ひしに溝の中へか落
あやまちせす助りけるとそ母ハ本堂迄ほどある道をころび