翻刻
かつたらうの其方(そなた)ハ誠(まこと)の外(ほか)仕合(しあハせ)もの此甞(このなめる)ハ今(いま)の夢(ゆめ)に漸(やう〳〵)させ子(こ)を
抱(だい)て寐(ね)ていやがる処(ところ)を無理(むり)やりに大骨折(おほぼねをり?)で本望(ほんもう)を遂(とげ)たと思(おも)ふハ
夢(ゆめ)なれバ覚(さめ)て悔(くや)しいお身等(ミら)が㒵(かほ)ほんにぶつたり叩(たヽ)【扌卩】かれたりと
いふめに逢(あつ)た此甞(このなめる)悔(くや)し涙(なミだ)が此通(このとほ)りと蚕豆程(そらまめほど)の泪(なミだ)をこぼせバ九次郎(くじらう)
近(ちか)くすり寄(よつ)て《割書:九》〽我兄(あにき)【𠨂兄】が腹立(はらたち)尤(もつとも)ながら実(じつ)に昨夜(さくや)ハ両親(ふたおや)への心休(こヽろやす)めに床(とこ)へ
ハ入(い)れど決(けつ)して一義(いちぎ)ハいふまでなし毛一本(けいつぽん)だに引張(ひつぱら)ぬ此九次郎(このくじらう)が義心(ぎしん)
鉄石(てつせき)そのせつなさを推察(すいさつ)あれと皆(ミな)まで言(い)ハせず首(くび)うちふり涙(なミだ)
拭(ふき)つヽうるミこゑ【声】《割書:甞》〽是(これ)こなさんもいひ加減(かげん)に人(ひと)を安房(あほう)にするがいヽ
てしま十八