翻刻
なれば益なしと思ひて金銭は不残彼国に
遊ふ内遣ひ捨候由
或日ハ夕涼ミに橋の上にて酒宴を設けて漂人等
盃を彼方此方え取かわす側らへ冨家の小女乳
母らと夕涼ミに来りて見しがおかしがり我国
とハ■上なりと申候よし
唐土にて貰ひし衣服竹籠り其外数々持
帰り其内/乍浦(テンミン)にて日本服に仕立呉れたると
いふ衣服は地カネキンにて鳶色の綿入なり背中
の方え綿を沢山入て袂の方にハ綿無之ふきを
内えまわして不細工の仕立風也
煙管は大きなる物にてラヲは木を操りぬきたる
物なり長サ壱尺四五寸あり是ハ座敷持のよし
唐人他行の節持煙管ハ長サ壱尺位にて鳫頸
びの先に釼有之土突にしてラヲのなか程え煙
艸入れを括り付杖にして歩行致候由其外
略す
永々異国を歴廻したる故意味有珍説奇話も
可有なれとも漂泊の身の上にて只無事に帰
朝の念願而已なれハ異国の珍事も見も不留様
子香港/上海(シヤンハイ)等ニ而も万国の人物に出会容貌
言語の異なるを見聞し来りし由なれとも
其中珍敷思ひしハ天竺人等我日本薗浦に
用ゆる奴コ踊りの長頭巾の如きのもを被き
有しが目に留りたるのミにて外の事は見聞せる
も耳目の心なけれは其事を覚えすといふ遺恨
といふべし
此/乍浦(テンミン)郡官ゟ漂客都合十壱人え詩画一幅ツヽ贐け