翻刻
凡殺生(をよそせつしやう)と申は定(さだま)りたる料理(りやうり)ごとあるひは薬(くすり)ぐひなどに
魚鳥(うをとり)の命(いのち)をとり候 事(こと)にてはなく候 只(たゞ)無益(むやく)に物(もの)の
命(いのち)をとり或(あるひ)はいためくるしめ候 事(こと)を申候 然(しか)れはかり
そめの弄(もてあそ)びにも生類(いきもの)をかひてつなぎくるしめ又(また)
たとひかわず候ても犬(いぬ)を打擲(うちたたき)走(はし)らかし鶏鳩鼠(にはとりはとねづみ)
などをとらへ苦(くる)しめ虫(むし)けらの頭(くび)をとり羽(はね)をぬき
あらゆるわるさをする子(こ)ども衆(しゆ)もあるものなり是全(これまつた)く
聖人(せいじん)仏(ほとけ)の教(をしへ)をきかぬ故(ゆへ)なり一切万物(いつさいばんもつ)は皆(みな)もと直(ぢき)に
我(われ)が身(み)なり草木(くさき) 虫(むし)魚鳥獣(うをとりけだもの) 生(しやう)あるものは猶以(なおもつ)て我(わ)が
身(み)にとりて近(ちか)く重(をも)し然(しか)れどもそれをいためて覚(おほ)へ
ぬは今(いま)の身(み)にも我(わ)が髪(かみ)のはし爪(つめ)のはしは我(わか)身(み)の
内(うち)なれどもおぼへぬに同(をな)じしかれはさしあたり
いたみは覚(おぼ)へねども我(わ)が身(み)のはしに違(ちが)ひなしそれを
毀傷(そこなひやぶ)りいため殺(ころ)すは我身(わがみ)をやぶるに似(に)たれは深重(じんぢう)
《割書:ふかきおもき| 》
の罪科(つみとか)なり現在(げんざい)の我(わ)が身(み)の命(いのち)ををしくいたみの
いたさこたへにくきにて引(ひき)くらべおもひしりて左様(さやう)の
事(こと)かたくなさるまじく候これも偽(うそ)と同(をな)じ事(こと)にて
幼少(ようせう)より殺生(せつしやう)をいたしつけ候へは後(のち)にはものをころす
事(こと) 上手(しやうづ)になり甚(はなはだ)いやらしくおそろしきものになり
申ものにて候物(もの)の報(むく)ひと申 事(こと)はかなしくもおそろしき