翻刻
大成徳(おほひなるとく)にして身(み)を修家(をさめいゑ)をとゝのふるの大事(だいじ)なれば
尊(たつと)きも卑(いやし)きも通(つう)じてせねばかなはぬ事なり。かやうの
大事(だいじ)を物知(ものし)らぬ人(ひと)は却(かへつ)て下品(げび)たるやうにおもひ衣服(いふく)
道具(だうぐ)もきらめき。身持(みもち)も花奢(をごり)たるを上品(じやうび)たりとおもふは
何(なに)の弁(わきま)へもなき故(ゆへ)にて甚(はなはだ)あさましき事(こと)なり。左様(さやう)の
人柄(ひとがら)は心(こゝろ)ある人には大(おほ)きに笑(わら)ひものとなるなり。恥(はづ)かしき
事(こと)にあらずや。真実(しんじつ)の上品(じやうび)たる事は道(みち)にかなひて厚等(こうとう)
なる故(ゆへ)花奢(をごり)を好(この)むめよりは下品(げび)たりと見ゆる事 多(おほ)
かるべし。此所(このところ)をよく〳〵弁(わきま)へて道(みち)にそむかぬやうにと
つゝしみ。善人(ぜんにん)の笑(わら)ひものにならぬやうにしたまへ
一女は嫁(か)して後(のち)は他念(たねん)なく。舅姑夫(しうとしうとめをつと)に事(つかふまつる)こと。是(これ)まで
《割書:よめいり| 》
父母(ちゝはゝ)につかへしごとくすべし。二度(ふたゝび)我(わが)うちへ戻(もど)るまじと
御つゝしみなさるゝが何(なに)より大切(たいせつ)の事(こと)にて候
凡(をよそ)女子は我(われ)が家(いゑ)といふものなきゆへ嫁(よめいり)するを帰(とつぐ)と
いひて帰(かへる)といふ字(じ)を書(かく)なり。是則夫(これすなはちをつと)の家(いゑ)を家(いゑ)と
するゆへ帰(かへる)といふなり。されば父母(ちゝはゝ)の家(いゑ)を出(いづ)る時門火(ときかどび)を
たきふたゝび父母の家(いゑ)へもどらぬといふ儀式(きしき)をするも
其(その)いはれなり。然(しか)れば一度嫁(いちどか)してのちは夫(をつと)を神(かみ)とも
《割書:よめいり| 》
仏(ほとけ)とも頼(たの)み。貴(さつと)び敬(うやま)ひこの夫(をつと)に見はなされては身(み)の
置所(をきどころ)なしと思(おも)ひ入夫(いりをつと)と同体(どうたい)の心(こゝろ)となりて。たとへば
《割書:をなじからだ| 》