翻刻
手足(てあし)が目口(めくち)の用事(ようじ)をかくことなきがごとく。すこしも
怠(をこた)りなくつかふまつるべし。扨夫(さてをつと)を敬(うやま)ふといふは。たゝ頭(づ)を
さげ手(て)をたれて。我(わ)が身(み)を引(ひき)さがるのみにあらず。第(だい)
一(いち)の敬(うやま)ひといふは夫(をつと)に恥辱(ちぢよく)を与(あた)へざるにあり。さればたゞ
《割書:はぢ| 》
何(なに)とぞ一生涯(いつしやうがい)夫(をつと)には恥(はぢ)をかゝさじと心願(しんぐわん)を発(をこ)し。歩々(ぶゝ)
《割書:あゆむにも| 》
行住座臥(ぎやうぢうざぐわ)にこれを忘(わす)るまじきことなり。此心願(このしんぐわん)にて
《割書:ゆくにもとゞまるもゐるにもねるにも| 》
女の道(みち)は大(おほ)かた不足(ふそく)なくとゝのふものなり。先舅姑(まづしうとしうとめ)に
不孝(ふかう)なるは夫(をつと)の大恥(おほはぢ)なり。髪貌(かみかたち)のはでなるより衣服(いふく)の
花奢(はなやかにをごり)たる。万(よろづ)の行儀気(ぎやうぎき)のつくつかぬまで少(すこ)しも過(あやま)てば
皆夫(みなをつと)の辱(はぢ)となるなり。一々(いち〳〵)はいひつくしがたし。推(を)して
しらるべし。誠(まこと)に恐(をそ)れつゝしむべき大事(だいじ)のことなり。又(また)
舅姑(しうとしうとめ)につかふまつるは我(わ)が父母(ふたをや)に事(つか)ふるごとく。心(こゝろ)の
隔(へだ)てなく敬(うやま)ひ愛(あい)し参(まい)らせ。何事(なにごと)にてもすこしも
仰(をゝせ)に背(そむ)かず。随分(ずいぶん)〳〵気(き)をつけていたはり太切(たいせつ)に
すべし。舅姑夫(しうとしうとめをつと)へのつかへさへよければそれが直(じき)に実(じつ)の
父母への孝行(かうこう)といふものなり。必々(かならず〳〵)我(わ)が旧里(さと)の事(こと)を
思(おも)ふべからず下女(げぢよ)はしたにのせられてかりにも夫(をつと)の一家(いつけ)
一門(いちもん)をそしるべからず。尻(しり)がるにて言葉(ことば)はすくなく。夫(をつと)の
外男(ほかをとこ)に近(ちか)よらず。女のともなき所(ところ)におらず。常(つね)に人(ひと)の
口(くち)のをそろしき事をわするべからず。余暇(いとま)の折節(をりふし)は