翻刻
右(みぎ)の通能々(とをりよく〳〵)御読(をんよみ)御のみこみなされ。常々(つね〳〵)御精(ごせい)に入(いれ)れ御つゝしみ
御つとめなさるべく候。女中の御孝行(ごかうこう)と申は此外(このほか)なく候。万(よろづ)の不孝(ふこう)
は気随気任(きずいきまゝ)といふ大病(たいびやう)より発(をこ)る事にて候。それゆへ何事(なにごと)も
御孝行(ごかうこう)の御志(をんこゝろざし)さへ立(たち)候へば其(その)ひとつにてつとまらぬ事はなく候
しかればとにもかくにも父母の御恩のおもき事を御わすれ
なく。あしたに鏡(かゞみ)をとり顔(かほ)を御むかへなさるゝにも。此身(このみ)も心(こゝろ)も
直(ぢき)に御両親(ごりやうしん)の御身心(をんみこゝろ)のかたみぞとおぼしめし。父母の御顔(をんかほ)を
拝(はい)する思(おも)ひになり。又手足(またてあし)は近(ちか)く常(つね)にめにかゝりやすき所(ところ)
なれば手足(てあし)を見る毎(ごと)にも親(をや)の御身(をんみ)に疵(きづ)をつけじ。御心(をんこゝろ)に
恥(はぢ)をかゝせ奉(たてまつ)るまじと明(あけ)ても暮(くれ)ても。起(たつ)にも居(ゐ)るにも。時所(じしよ)
諸縁(しよゑん)につきてつゝしみ。念仏者(ねんぶつしや)の念仏(ねんぶつ)をわすれぬごとく
父母を太切(たいせつ)に思(おも)ひ給はゞ現当(げんたう)におゐて即悪心(すなはちあくしん)も発(をこ)るまじ。
悪事(あくじ)も出来(でく)る事あるまじ。若勉(もしつとま)らぬ事あらばこれを以(もつ)て
引(ひき)くらべ。直(ぢき)に我(わ)が気随気任(きずいきまゝ)なりと知(し)り給ふべし。つとむるに
つとまらぬ事はなし。つとめねばつとまらぬなり。其勤(そのつとま)らぬは
彼気随気任(かのきずいきまゝ)といふ大病(たいひやう)なりと。かなしみおそれ。つゝしむで
改(あらた)めきびしくつとめ給ふべし。つとむればつとまるなり。女子
の重宝此上(ちやうほうこのうへ)あるまじきかに候