翻刻
貧賤(ひんせん)なる身なればかゝる華美(くはび)なる婦(をんな)を迎(むか)ゆべきにあらず又
《割書:まづしくいやしい| 》 《割書:はなやか| 》 《割書:よめ| 》
異方(ことかた)へも嫁(か)し給へといひければ桓氏(くわんし)こたへていひけるは元来我(もとよりわが)
《割書:ほか| 》 《割書:よめいり| 》
父鮑君貧(ちゝほうくんまつ)しき身にて徳(とく)をおさめ給へるを感(かん)じて我を君に
《割書:むこぎみ| 》
つかふまつらしめ給ふなりさればとにもかくにも君(きみ)の仰(をゝせ)にたがふ事
有(ある)べからずとて美服(びふく)を改(あらため)て短布(たんふ)の衣裳(いしやう)を着(き)多(おほく)の調度(てうど)其外
《割書:よききもの| 》 《割書:あらきぬの| 》 《割書:きもの| 》 《割書:どうぐ| 》
つき〳〵の侍女(じぢよ)も皆(みな)〳〵親里(をやざと)へ返(かへ)し鮑宣(ほうせん)とともにして小車(こぐるま)を
《割書:こしもと| 》
ひき姑(しうとめ)に孝行(かう〳〵)を尽し釣瓶(つるべ)を提(さげ)て手づから水を汲(くみ)飯(いひ)を炊(かし)き
《割書:めし| 》 《割書:たき| 》
婦(をんな)の道を尽(つく)せり隣里(りんり)是(これ)を称(しやう)せざるはなしときゝ及(をよ)べり
《割書:あたりとなり| 》 《割書:ほめ| 》
不妬(ふご) 不妬(ふご)とは夫(をつと)に順(したが)ひて背(そむ)き悖(もとる)事なく我身を正(たゞ)しく
《割書:ねたまず| 》 して人を憐(あはれ)みたとひ夫(をつと)の愛(あい)する所の妾(しやう)ありとも夫をも
《割書:めかけ| 》
そねみねたまず恨(うら)み怒(いか)る心(こゝろ)なきをいふなり
女(をんな)は心(こゝろ)せばくして嫉妬(しつと)ふかく夫に不足(ふそく)を思(おも)ふ人多(ひとおほ)しこれ女第一
《割書:ねたみそねみ| 》
のつゝしみなりたとひ外(ほか)に夫の愛(あい)する人ありともそれをも
ねたまず夫(をつと)に少しも不足をおもはず却(かへつ)て夫の心をはかりて共(とも)に
妾(しやう)を愛(あい)しいつくしむ心あれば夫(をつと)この節義(せつぎ)に恥(はじ)て妻(つま)を見かへず
《割書:めかけ| 》 《割書:みちたゞしき| 》
妾も亦此恵(またこのめくみ)をうけてかろしめ侮(あなと)る事あるまじ漢(かん)の明帝(めいてい)の
后馬皇后(きさきばくはうごう)は天性才徳(てんせいさいとく)すぐれさせ給ひ学(かく)に通(つう)じ行(をこな)ひ一つとして
《割書:がくもん| 》
道にかなはずといふ事(こと)なし物(もの)ねたみの御心ましまさずして王子(をうじ)の
うまれさせ給はぬ事をのみなげかせ給ひ才(さい)かしこく容(かたち)うる
はしき女あれば帝(みかど)に奉り給ひもし御寵愛(ごてうあい)あればかぎりなく