東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 1

前訓 - 翻刻

前訓 - ページ 30

ページ: 30

翻刻

 悦(よろこび)び給ひ其女(そのをんな)を猶々(なを〳〵)したしくめぐみ給ひ尊(たつと)き御身なれども  いさゝかも奢(をこり)給はずはなやかなる御衣(ぎよい)を着(き)給はずあらき御衣を                 《割書:をんめしもの| 》  のみ着(き)給ひしとなり又我朝(またわかてう)の紀氏(きうじ)なりける井筒(いつゝ)の女(をんな)は妬(ねたむ)こゝろ  少(すこ)しもなくかへりて夫(をつと)を大切(たいせつ)におもひける心ふかゝりけるとそ  「風(かぜ)ふけばおきつしらなみたつた山夜半(やまよは)にや君(きみ)がひとり行らん  とよみたるこゝろいとあはれふかし 倹約(けんやく)    倹約(けんやく)とは我心(わかこゝろ)をかたくひきしめ少しも奢(をごる)心なく 《割書:をごらず つゞまやか| 》衣服飲食万(いふくいんしいよろつ)に恣(ほしいまゝ)にきまゝなる事をせぬをいふなり  然(しかれ)ば居所(ゐどころ)はいふに及ばず衣類(いるい)とても恣(ほしいまゝ)にうるはしきを着(き)ず食事(しよくし)  もつゝしみて美(ひ)なるをはふき何事も身の奢(をこり)をしりぞけ       《割書:けつかう| 》  家内(かない)の者(もの)を見そだて或(あるひ)はうれひにあへる人貧(ひとまづ)しき人をも  めぐみ夫の心 届(とゞか)ざる所あれば色(いろ)をやはらげ声(こゑ)を怡(よろこ)ばしふして  夫(をつと)にかくと告(つけ)て恵(めぐ)みあるべし女は心小(こゝろちいさ)き故物事吝(ゆへものことしわく)なりやすし  吝(しはき)は必奢(かならずをごり)より出(いづ)るものなり心しわく身の奢ある時は家を亡(ほろぼ)す  べし元(けん)の世祖(せいそ)の后順聖皇后(きさきしゆんせいくはうこう)は勤倹(きんけん)の御徳(をんとく)ましましてみづから                  《割書:つとめをごらぬ| 》  苧(を)をうみ布(ぬの)とし給ひ綿(わた)をのべて紬(つむぎ)とし給ふ糸すじほ  そくそろひあざやかなる事 綾綺(れうき)の綾(あや)に異(こと)ならず常(つね)に  紬(つむぎ)をのみ着給ひて錦(にしき)を着給はず万事(よろつのこと)これにならひて  奢なく道を慎(つゝし)み給へば万民御徳(はんみんをんとく)に化(くわ)して下をだやかなり  しとや其帝(そのみかど)は韃靼国(たつたんこく)より出給ひ大唐(たいとう)の帝(みかど)となり給へば