翻刻
もとより后(きさき)もたつたん国(こく)の御生(をんうま)れなりゑびすの国(くに)に生れ給へ
ども御志(をんころざし)は聖人(せいじん)の道にかなはせたまへばづれの国にうまれ
いかなる人の子(こ)なりとも志(こゝろざし)だにあらば聖賢(せいけん)の道にかなひ侍(はんべ)ら
ざらんや有がたき御 志(こゝろざし)なり
恭謹(きようきん) 恭謹(きようきん)とは容正(かたちたゞ)しく心(こゝろ)を用(もち)ゆる事(こと)ゆだんなく
《割書:うや〳〵しくつゝしむ| 》 身(み)を太切(たいせつ)に執(とり)まもるをいふなり
されば女は順(したが)ふを道とするなればつゝしみ特(こと)にをもし万(よろづ)の
事心に怠(をこた)りなく身もち正(たゝ)しく驕(をご)りたかぶる事なきやう
にといましめたしなむべし婦(よめ)となりて驕(をごり)りたかぶる時(とき)は子孫(しそん)
ほろび身を失(うしな)ふ婢(しもをんな)となりてたかぶる時は咎(とかめ)られ身の立所なし
又(また)おごらざる時(とき)は我身人(わがみひと)に敬(うやま)はれ子孫(しそん)ながくさかへ安穏(あんをん)なるべし
漢馬皇后(かんのばくはうごう)は婦徳(ふとく)すぐれましまして帝(みかど)ふかく称挙(しようきよ)し給ひ
《割書:をんなのとく| 》 《割書:ほめもちひ| 》
ければ御子位(をんこくらゐ)につき給ひて後御母(のちをんはゝ)かたの御一門(ごいちもん)に大国(たいこく)を授(さづ)け
尊(たつと)くなしまいらせんと勅命(ちよくめい)ありけれど后(きさき)かたく辞(じ)したまひ
《割書:みかどのをゝセ| 》 《割書:じぎ| 》
仰(をゝせ)けるやうは親類時(しんるひとき)にあひぬれば必奢長(かならずをごりちやう)じて天下(てんか)の災(わざわひ)となる
事(こと)ためし多(おほ)し時(とき)にあひたる幸(さいわひ)なるに何(なに)の功(こう)もなくして
此(この)うへに大国(たいこく)をたまはり天下(てんか)の政(まつりごと)を執行(とりをこな)はん事二(ことふた)たびみのる
木(き)の其根(そのね)かならず枯(か)るゝが如(ごと)しとて終(つゐ)に我親類(わがしんるひ)を引(ひき)あげ
給はざりけり天子(てんし)の御母(をんはゝ)なれども宮中(きうちう)に糸繰機織所(いとくりはたおりどころ)を
《割書:ごてんのうち| 》
こしらへ御慰(をんなぐさみ)にし給ひけるとなん