翻刻
勤労(きんろう) 勤労(きんろう)とは人(ひと)の婦(よめ)となりては我身(わがみ)を夫(をつと)に任(まか)せて
《割書:つとめしんどする| 》少しも私の心なくいかやうのくらうなる事も苦労と
おもはずちからをつくしつとむるをうふなり
然(しか)れば女(をんな)に身(み)になす業口(わざくち)にいへる言夫(ことばをつと)の仰(をゝせ)に背(そむ)かず舅姑(しうとしうとめ)に
孝行(かう〳〵)を尽(つく)し家内(かない)の取廻(とりまは)し正(たゞ)しく楽(らく)をもとめず心(こゝろ)を
はげまし少(すこし)も怠(をこた)りなく奴婢(しもおとこしもをんな)又(また)幼年(ようねん)なるものをいたはり
引立取廻(ひきたてとりまは)し夙(つと)に起(をき)夜半(よは)に寝(ゐね)紡績裁縫(うみつむぎたちぬい)のわざ怠(をこた)らず
《割書:あさはやく| 》 《割書:よをそく| 》
舅姑夫(しうとしうとめをつと)の衣服(いふく)きよらかにすへし見苦敷衣服(みぐるしきいふく)を着(き)せざるやうに
心(こゝろ)がむげに日(ひ)を送(おく)り給ふまじけふの日(ひ)は明日(あす)にいたること
速(すみやか)なる水(みづ)はながれて帰(かへ)らず光陰矢(くはういんや)のごとくにしてしばらくも
《割書:はやき| 》
どゞまる事(こと)なし老(をひ)たるもの二(ふた)たび若(わか)くならず幼(いとけ)なふして
学事(まなぶこと)をせざれば老(をひ)て悔(くや)めども益(ゑき)なし楽(たのしみ)は極(きわ)むべからず
志(こゝろざし)は充(みつ)べからず奢(をごり)は長(ちやう)ずべからず楽極(たのしみきわまり)て哀情多(あいじやうおほ)し志(こゝろざし)を充(みつ)る
《割書:かなしみ| け》
時(とき)は不遜(ふそん)なり奢長(をごりぢやう)ずる時(とき)は亡(ほろ)ぶ凡身(をよそみ)の行(をこな)ひは心(こゝろ)の発用(はつよう)なれば
《割書:きまゝ| 》 《割書:あらはるゝ| 》
心正(こゝろたゞ)しからざれば行(をこなひ)も亦正(またたゞ)しからず程子(ていし)の言(ことば)にも言行善(げんこうせん)なれども
《割書:ことばをこなひ| 》
実情(じつじやう)なき人(ひと)は是誠(これまこと)の人(ひと)の道(みち)にあらずとむべなるかな昔時唐(むかしとう)の
《割書:まことのこゝろ| 》
鄭義宗(じやうぎそう)が妻(さい)盧氏(ろし)は世(よ)のきこえあるほどの婦徳(ふとく)を備(そな)へたる
《割書:をんなのとく| 》
婦人(ふじん)なりされば舅姑(しうとしうとめ)につかへて大孝(たいかう)を尽(つく)せり或夜(あるよ)其家(そのいへ)へ盗賊(とうぞく)
《割書:をんな| 》 《割書:ぬすび| 》
五十人計(ごじうにんばかり)太刀(たち)かたな抜持(ぬきもち)太鼓(たいこ)を鳴(な)らし垣(かき)をこへて家(いへ)に入(いり)る家内(かない)
の人々(ひと〳〵)恐(おそ)れ逃(にげ)かくれければ姑独(しうとひと)り寝屋(ねや)にゐけるに盧氏(ろし)釼(つるぎ)を抜(ぬき)