翻刻
【右丁】
読(どく)せし。麻疹(ましん)精要(せいよう)も精(せい)がつきて。
ハレ薬代(やくだい)もないとつぶやく医(い)
家(しや)も多(おほ)かるべし。既(すで)に訥子(とつし)去(さり)て
梅幸(ばいこう)秀(ひいで)。疱瘡(はうさう)ねいりて麻疹(はしか)
行(おこな)はる。誠(まこと)に禍福(くわふく)は七ころび
八起(おき)。通(とほ)り町(ちやう)の人形(にんぎやう)見世に。
うれぬ達磨(だるま)は白眼(はくがん)にして。
【左丁】
世上(せじやう)の人(ひと)を恨(うらめ)しげににらみ。
あるじは頬(ほう)をふくらかして。恰(あたかも)
張子(はりこ)の《振り仮名:木兔|み[ゝ]づく》の如(ごと)く。又(また)新道(しんみち)の
炙鰻屋(うなぎや)は。団扇(うちは)の音(をと)も絶(たえ)〴〵
にて。銅(あかゞね)の長火鉢(ながひばち)も火(ひ)の消(きへ)た
やうに淋(さみ)しく。焼手(やきて)のはちまき
頭痛(づつう)にかはり。鍋焼(なべやき)の泥亀(すつぽん)も。