翻刻
【右丁】
程(ほど)も推量(すいりやう)され。衣紋(えもん)の紅(もみ)うら
何(なに)とやら。色気(いろけ)がさめてみゆる也。
此時(このとき)に当(あた)ッては。深川(ふかがは)ゆきの
家根舟(やねぶね)も。鼻(はな)の下(した)とゝもに
干(ひ)あがり。吉原通(よしはらがよ)ひの𫅋(よつで)駕(かご)も。
腮(あご)とひとしく宙(ちう)につるして。
唯(たゞ)くすしの乗物(のりもの)のみ。大門(おほもん)の
【左丁】
出入(いでいり)昼夜(ちうや)をすてず。中(なか)の町(ちやう)の
桜(さくら)もこれが為(ため)に延引(えんにん)して。
寂(さみ)しさ増(まさ)る夕間暮(ゆふまぐれ)。羅生門(らしやうもん)
河岸(がし)の哀(あはれ)なるや。茨木(いばらき)がゝ
りの大格子(おほかうし)も。すがゝきの声(こゑ)
寂(じやく)として。渡辺玄好(わたなべげんかう)御見舞(おみまひ)と。
腕(うで)をとらへて脈(みやく)をばうかゞふ。