翻刻
して引(ひき)取けるが此 戦(たゝか)ひを見て一 文字(もんじ)に長政が本 陣(ぢん)へ切てかゝれば蜂谷兵(はちやへう)
庫(ご)森(もり)三左衛門は信長の御手に加(くは)はり両将互(りやうしやうたがひ)に鎬(しのぎ)をけづり切先(きつさき)より火(ひ)
花をちらし追(をつ)つかへしつ戦(たゝか)ひしはすさましとも中くいはん方(かた)々そなかりける
遠藤(ゑんどう)喜右衛門浅井半助両人は今日(けふ)の軍(いくさ)に討負(うちまけ)なば活(いき)て二 度(たび)人に面(をもて)を
合(あは)せじと命(いのち)を塵芥(ぢんがい)よりも軽(かろ)くなし向(むか)ふ敵(かたき)のゑらびなく竪(たて)さまに切
開(ひら)き横(よこ)さまに薙廻(なぎまは)り当(あた)るを幸(さいはい)に切立れば此両人に切立られ坂井(さかい)
が手の兵(へい)ども四度路(しどろ)に成て見へにける右近父子(うこんふし)は一番の合戦(かつせん)に敗北(はいぼく)し
今又 爰(こゝ)を破(やぶ)られては何 面目(めんぼく)に君(きみ)に面(をもて)を合すべき死(し)すべき期(とき)こそ来(きた)つ
たれと郎等(らうどう)わづかに五十 余(よ)人引 具(ぐ)して逃(にぐ)る味(み)方に目もかけず長
政の籏(はた)本へ一 参(さん)にこそ切入たり中にも嫡子(ちやくし)久蔵は血気壮(けつきさかん)んの若武者(わかむさし)
にて十 文字(もんじ)の鎗(やり)引(ひつ)さげ長政目がけ馳(はせ)行を続(つゞ)く味(み)方もなかりける