翻刻
ふるひつゝ踏込(ふみこみ)〳〵切むすべど大 勇(ゆう)無双(ぶさう)の真柄(まから)なれば兄弟(きやうだい)とも数(す)ヶ所(しよ)
の深(ふか)手を負(を)ひ既(すで)に討(うた)れつべうぞ見へたりけるに真柄が運(うん)や尽(つき)たりけん
誰(た)が射(い)るとも知(し)れぬ流矢(ながれや)ひとつ飛来(とびきた)つて左の目の上にぐさと立てば
さしもの十郎左衛門 急所(きうしよ)なれば暫(しば)しもたまらず真(まつ)さかさまに馬より落(をつ)
るを向坂兄弟(さきさかきやうだい)をり重(かさな)りおさへて首(くび)を取たりけり北国(ほつこく)に双(ならび)なき真柄(まがら)すら
かくのごとく也ければ朝倉勢いよ〳〵魂(たましい)を失(うしな)ひさん〴〵に成て長政の本(ほん)
陣(ぢん)さしてなだれかゝればいとゞさへ乱(みだ)れ騒(さは)ぎし浅井(あさい)方 立足(たつあし)もなく小谷(こだに)を
さして引行を信長勢 勝(かつ)に乗(のつ)て追討(おひうつ)事 数(かず)をしらず討取(うちとる)首(くび)一千 余級(よきう)
日も西山に傾(かたふ)けば勝鬨(かちどき)を三度 揚(あげ)悦勇(よろこびいさ)み姉(あね)川に本陣(ほんぢん)を居(すへ)首実検(くびじつけん)せられける
遠藤(ゑんどう)喜右衛門 討死(うちじに)
長政(ながまさ)の功臣(こうしん)遠藤喜右衛門はけふを限(かぎ)りと思ひ定(さだ)めし事なれば一 足(あし)もひ