翻刻
人 筒先(つゝさき)を揃(そろ)へ打倒(うちたを)せば忽(たちまち)磯野(いその)が勢三百 余(よ)人 打殺(うちころ)され疵(きず)を負(を)ふ者(もの)
数(かず)をしらずすはこそ敵(てき)の謀計(はかりこと)に落(をと)されたり早(はや)く退(しりぞ)けやといふほどに大
将(しやう)の下知(げぢ)をも聞(きゝ)入ず乱(みだ)れ騒(さは)ぎて敗走(はいそう)す木下方三方の勇士等(ゆうしら)勢(いきほ)ひに
乗(ぜう)じて駈出(かけいだ)せばさしも猛(たけ)かりし磯野丹波守さん〴〵に討(うち)なされ後陣(ごぢん)
の味(み)方と一手(ひとて)に成(なら)んと元来(もとき)し道(みち)へ走(はし)りけるを木下が三千の勢三千
余(よ)人 追詰(おいつめ)〳〵攻討程(せめうつほど)に討(うた)るゝ者(もの)数(かず)をしらず磯野丹波守 自(みづから)殿(しんがり)して
取(とつ)てかへしては戦(たゝか)ひ戦ふては引 退(しりぞ)き漸(ようやく)後陣(ごぢん)の勢に近付(ちかづき)たり浅井備前(あさいびぜんの)
守(かみ)長政は先陣(せんぢん)勝(かつ)に乗(のつ)て信長が籏本迄切入たりと聞(きゝ)ければ跡に続(つゞい)て
備(そな)へを繰(くり)出し進(すゝ)む所に忽(たちまち)先手(さきて)の軍 破(やぶ)れ磯野丹波守 乱(みだ)れ騒(さは)ぎて
逃(にげ)来れば木下勢 跡(あと)に喰付(くひつき)少(すこ)しもゆるめず追来(をいきた)る長政 是(これ)を見て丹波
守を後陣(ごぢん)と成(な)し自(みづから)籏本(はたもと)の勢三千余人 新手(あらて)を以て木下と向(むか)へ戦(たゝかふ)