翻刻
【右丁】
閉(たて)自由(じゆう)にすべし日(ひ)の照(て)りこむは甚(はなは)だ悪(わる)し元来(ぐわんらい)夜分(やぶん)は陽気(ようき)退(さ)めて
朝(あさ)《振り仮名:五ッ|いつゝ》迄(まで)は至極(しごく)涼(すゞし)きものなり昼(ひる)九(こゝの)ッ前(まへ)より暖(あたゝか)になり八ッ時分(じぶん)より
蒸々(むし〳〵)とほめくなり西(にし)うけの家(いゑ)などは別(べつし)て夕日(ゆうひ)の火気(くわき)に蚕(かいこ)を傷(いた)め
大に損(そん)すること間々(まゝ)あることなり此(この)家敷(やしき)は西(にし)の方(かた)え樹木(じゆもく)を植(うゑ)て夕日(ゆうひ)
の火気(くわき)を防(ふせ)ぐべし又/寒(さむ)きとて蚕(かいこ)に屏風(べうぶ)など引廻(ひきまわ)し又は紙帳(してう)を張(はり)
などし格別(かくべつ)風(かぜ)の入(いり)を止(や)めむさ〳〵とほめかす事(こと)悪(わる)し陽気(ようき)は昼夜(ちうや)時々(とき〳〵)
にて替(かわ)るなれば家内(かない)何時(なんどき)も同様(どうよう)にして養蚕(ようさん)すべし惣(そう)じて蚕(かいこ)に限(かぎ)らず
其道(そのみち)を業(げう)と為(す)るには一心(いつしん)の動(はたら)き肝要(かんよう)なり春(はる)は苗代風(なわしろかぜ)というて時(とき)に
より北風(きたかぜ)吹(ふき)別(べつし)て寒(さむ)きこと折々(おり〳〵)あるべし蚕(かいこ)も幼(をさな)き時(とき)は寒(さむさ)に痛(いた)むべしまた
ほめきし神蚕(かいこ)は庭起(にわおき)より性(せう)悪(あし)くなるべし又(また)寒(さむ)さにも痛(いたま)ざる程(ほどの)の強(つよ)き
【左丁】
蚕(かいこ)は後(のち)無病(むべう)と知(し)るへし第一/我家(わがいゑ)の陽気(ようき)加減(かげん)を覚(おぼゆ)ること至(いたつ)て大切(たいせつ)の
事(こと)なりと養蚕書(ようさんしよ)に見(みえ)たり此業(このわざ)寒暖計(かんだんけい)を時々(より〳〵)見(み)て定規(でうぎ)とせ
ば心易(こゝろやす)く覚(おぼえ)よし然(しか)し年々(とし〳〵)に水(みづ)も減器(へるもの)なれば蚕(かいこ)盛(さかり)に生(うま)れ出(いづ)る日(ひ)の
度数(どすう)を以て定(さだ)むべし
蚕(かいこ)生(うま)れ出(いづ)る時(とき)心得(こゝろゑ)の事
八十八/夜前(やまへ)よりは種紙(たねがみ)の上下に紐(ひも)を付(つけ)て一日/替(かわ)りに種(たね)を釣(つ)り替(かゆ)ると
守国(もりくに)の教(をし)えなれども是(これ)は家内(かない)鼠(ねづみ)の通(かよわ)ぬ小高(こたか)き所(ところ)か又(また)は長押(なげし)の
上(うゑ)に大/竹(たけ)歟(か)竿(さを)丸太(まるた)の類(るい)を差渡(さしわた)しその上に籠(かご)に紙(かみ)を敷(しき)その中(なか)に
籾(もみ)のすりぬかを壱寸程(いつすんほど)敷(しき)その上(うゑ)に又/紙(かみ)を敷(しき)其上に種紙(たねかみ)を袋(ふくろ)
より取出(とりいだ)し美濃紙(みのがみ)四枚継(しまいつぎ)位(くらい)にして是(これ)に包(つゝ)み平(たいら)に入(いれ)上置(あげお)き時々(とき〴〵)見(み)