翻刻
【右丁】
目(め)四日めは桑喰(くわく)い盛(さかり)なれば常(つね)の一 倍(ばい)与(あた)ふべし
哥(うた)に 庭休(にわやす)み雨湿(あめしつ)除(よけ)て薄(うす)くせよ桑(くわ)を絶(たや)さず暑気(しよき)におどろけ
又(また)爰(こゝ)に秘事(ひじ)あり至(いたつ)て大暑(たいしよ)ならば蚕(かいこ)昼夜(ちうや)桑(くわ)の青葉(あをは)に放(はな)れずいつも
青葉(あをは)の上に休(やす)み居(いる)ように幾度(いくたび)も振(ふり)かけ〳〵喰(くわ)すべし斯(かく)人身(じんしん|ひとのみ)も堪難(たえかね)る
ほどにほめき強(つよ)き年(とし)は思(おも)いの外(ほか)蚕(かいこ)早(はや)く成(なり)繭(まゆ)も早(はや)く作(つく)るなり
此時(このとき)桑(くわ)ふ足(そく)すれば繭(まゆ)も小(ちいさ)く皮(かわ)薄(うす)く糸(いと)少(すくな)し庭(にわ)の起(おこ)りより蟄(すが)き繭(まゆ)
作(つく)るまでに桑(くわ)を二十 度(ど)より二十三四 度(ど)喰(くう)ものなり併(しかし)寒暖(かんだん)の加
減(げん)桑(くわ)の厚薄(うはく|あつきとうすき)#1にて遅速(ちそく|おそきとはやき)あるべけれど凡(およそ)日 数(かづ)七日 目前後(めぜんご)の内(うち)に
蟄(すが)き水精(すいせう)のごとく玲瓏(すきとを)るようになり龍(りよう)のごとく天(てん)上を望(のぞ)み繭(まゆ)
を作(つくら)んと巣隠(すがく)る所(ところ)を尋(たづ)ね歩(あゆ)む是(これ)を《割書:ひきるともいう|すがくともいう》此 時(とき)國(くに)々
【左丁】
にて繭(まゆ)作(つく)らす仕方(しほう)様(さま)々あり廣(ひろ)けれは爰(こゝ)に記(しる)さず宜(よろしき)に随(したが)ふべし
蚕(かいこ)の善悪(ぜんあく)幷(ならびに)病見様(やまいみよう)の事
蚕(かいこ)掃立(はきたて)より七八日めに獅子(しし)のふり桑(くわ)になるを上と知(しる)べし家内(かない)の陽(よう)
気(き)蚕(かいこ)に極(ごく)相應(そうをう)なりと知(しる)べし同(おなじく)六日め位(ぐらい)に獅子(しし)の責桑(せめくわ)になるを
中(なか)とす同(おなじく)四日め位(ぐらい)に獅子(しし)の責桑(せめくわ)になるを下(げ)と知(しる)べし尤(もつと)も日(ひ)々
平(たいら)に冷(すゞし)き気候(きこう)にある時は九月十日め程(あたり)責桑(せめくわ)になることあり斯(か)く
遅(おそ)き方(かた)は早過(はやすぎ)るよりはよし獅子(しし)の休(やすみ)の中(うち)に白(しろ)き節(ふし)ありて水(みづ)出(いつ)る
蚕(かいこ)あらば庭(にわ)の居起(いおき)に悪(あし)くなるべし是(これ)は冷(ひゑ)たる蚕(かいこ)又は暖過(あたかすぎ)#2たる蚕(かいこ)に
あるべし又 獅子(しし)の居尻(いしり)とる跡(あと)に死(しゝ)たる蚕(かいこ)あらば是(これ)は《振り仮名:障子|せう□》#3の透間(すきま)よ
り湿風(しつかぜ)に中(あた)りしなり鷹(たか)舩(ふな)の眠(ぬむ)り起(おこり)に頭(かしら)細(ほそ)き蚕(かいこ)多(おゝ)く出来(でき)桑(くわ)
【左丁上段】
俗に御舎利(おしやり)と云病
あり蚕舎利(こしやり)と云う所
も有薬種にては
強蚕(きやうざん)と云 異国(いこく)ゟ
渡来の物を上品と
す此病は何程種の性(せう)
能(よ)くとも霖雨(なかあめ)冷湿(れいしつ|ひやり )
勝(かち)の年に涼飼(すゞしがひ)の
蚕は桑 喰進(くいすゝま)す蚕(かひこ)
柔(やはらか)に成て死(し)して其