翻刻
【右丁】
は善(よ)き道理(とうり)なりと知(しる)べし
心得違(こゝろゑちがい)にて桑(くわ)に損徳(そんとく)ある事
蚕(かいこ)掃落(はきをと)して五六日の間(あいだ)は黒子(くろこ)にて喰(く)う様(よう)には見(み)へねど薄(うす)く
して常(つね)に器(いれもの)の中(なか)青(あを)く見(み)る様(よう)に早朝(そうてう)より四五 度(ど)夜(ど)に入(いり)一 度(ど)ツゝ
篩(ふるい)は一 分(ぶ)四 方(ほう)の目(め)より段々(だん〳〵)大 目(め)を用(もちい)て薄(うす)くむらなく篩(ふるい)にて振(ふり)
かけべし桑(くわ)の若芽(わかめ)を爪(つめ)にて摘取(つみと)り刻(きざ)み箕(み)にて茎(くき)を吹(ふ)き捨(す)て
後々(のち〳〵)は大 目(め)の篩(ふるい)にて振(ふる)い落(をち)たるを又中 目(め)にて振(ふる)い中(なか)に留(とま)りしは
網(あみ)の上に用(もち)ゆ段々(だん〳〵)篩(ふる)い分(わ)けて切葉(きりは)相應(そうをう)の蚕(かいこ)に与(あた)ふ極細(ごくこまか)き
は責桑(せめくわ)に用(もち)ゆる時(とき)は桑(くわ)に漏屑(ろうづ| むた)出(いで)ずして徳(とく)ありて蚕(かいこ)の為(ため)によし
此 節(せつ)蚕(かいこ)桑(くわ)喰(く)い切(き)らずとて青葉(あをば)しをれ黒(くろ)く見(み)ゆる迄(まで)間遠(まどを)く
【左丁】
飼(か)ふは眼前(がんぜん)桑(くわ)に徳(とく)ありとも蚕(かいこ)肥(ふと)らず勢(せい)弱(よわ)く自然(しぜん)寒暖(かんだん)に負(ま)け
後(のち)ふ作(さく)の基(もとい)となる初(はじ)め悋(おし)まず多(おゝ)く与(あた)ふは桑(くわ)費(つい)へ損(そん)の様(よう)なれ
ども蚕(むし)の嵩(かさ)少(すくな)き故(ゆゑ)左迄(さまで)の損(そん)なし蚕(かいこ)丈夫(ぜうぶ)に殖(ふ)え桑(くわ)沢山(たくさん)にいる
時(とき)喰切(くいき)り能(よ)く蚕尻(こしり)に青(あを)きもの少(すこし)もなく古枝(ふるゑだ)のみを伐(き)り拂(はら)い
新枝(しんゑだ)の侭(まゝ)投遣(なげや)りても新枝(しんゑだ)の分(ぶん)柔(やわら)かなる茎迄(くきまで)喰詰(くいつめ)る故(ゆゑ)に初(はじめ)#1
め思(おも)ふほどは無(な)く案外(あんぐわい|おもいのほか)に桑(くわ)も足(た)り繭(まゆ)多(おゝ)く出来(でき)るものなり
故(ゆゑ)に初(はじ)め万事(ばんじ)を抛(なげうつ)て手間(てま)と桑(くわ)とを惜(おし)まず十 分(ぶん)に飼(かは)さるは
大 損(そん)なり是(これ)俗(ぞく)にいう小 利(り)大 損(そん)又壱文 悋(をし)みの百 損(そん)とは此 類(るい)なるべし
譬(たとへ)ば赤子(あかご)乳汁(ちゝ)ふ足(そく)にて里子(さとご)にも頼(たの)まず種々(いろ〳〵)の食物(たべもの)にて養育(よういく)
し衣類(いるい)も時(とき)に合(かなわ)ず投遣(なけや)りにせば種々(いろ〳〵)の病(やまい)發(おこ)り終(つゐ)に短命(たんめい)に及(およ)び後(こう)