翻刻
【右丁】
春(はる)八十八/夜(や)前後(ぜんご)は日夜(にちや)の寒暖(かんだん)ふ同なり別て幼蚕(おさなかいこ)の頃(ころ)は俄(にわか)の寒気(かんき)
に負(ま)け又ほめきにもまけること恐(おそ)るべし此時(このとき)守国(もりくに)のをしえに雲(くも)の通(かよ)ひ
を見(み)て陽気(ようき)ふ同(どう)なきようにとあれど夜(よ)は見(み)えず之(これ)を早(はや)く知(しる)
るは寒暖計(かんだんけい)に限(かぎ)るべし但(たゞし)《割書:寒暖計(かんだんけい)に壱年十二ヶ月を上下に分け二十四/節(せつ)に分(わか)|つ此二十四/節(せつ)を度(も)り付てあり日々(ひゞ)時節(じせつ)の度数(どすう)に》
《割書:進退(しんたい)するように加減(かげん)すべしもし多分(たぶん)水(みづ)減りて二十四/節(せつ)の目度(めも)り出/合(あわ)ずなりなば売(うり)|人(て)の元(もと)えわたり損料(そんれう)を加(くわ)へ取替(とりかへ)新(あたら)しきを用ゆべし》
蚕(かいこ)生(うま)れ出(いで)し頃(ころ)は圃(はたけ)の桒(くわ)の芽(め)三ッ葉(は)四ッ葉(は)に延出(のびいで)し頃(ころ)蚕(かいこ)生(うま)れ出(いでる)ように
此時六十四五度に当(あた)る家(いゑ)に生(うま)れ出しは能(よ)く応(をゝ)じたりと知(しり)油断(ゆだん)なく飼立(かひたつ)る
時は三十五日めには必(かな)らず桒(くわ)喰(く)い止(や)め繭(まゆ)を作(つく)る是上/作(さく)なり
蚕種子(こたね)見様(みよう)の事(こと)
種(たね)は随分(ずいぶん)揃(そろ)いよく面(おもて)一様(いちよう)がよしと守国(もりくに)は教(をしえ)置(おか)れしが白繭(しろまゆ)の種(たね)は一様(いちよう)
【左丁】
に見ゆるを善(よし)とす黄繭(きまゆ)の種(たね)は一/枚(まい)の内に黄色(きいろ)あり萌黄(もえぎ)色あり
赤(あか)きあり紫色(むらさきいろ)ありて五(いつ)色/六(む)色もありてむら雲(くも)のごとく一概(いちがい)にい
ひがたし何国(いづく)も同様(どうよう)に見(み)えて善悪(よしあし)の鑑定(めきゝ)立(たち)がたく一向(ひたすら)に種元(たねもと)の国(くに)
郡村迄(こをりむらまで)を吟味(ぎんみ)して求(もとむ)ること第一(だいいち)なり種(たね)は地名(ちめい)の高(たか)き大河(だいが)の辺(ほと)り石(いし)
河原(かはら)にて堤(つゝみ)内外(うちそと)微砂(こますな)畑(はた)の数町歩(すてうぶ)ある所(ところ)にて村柄(むらがら)も能(よ)く桒(くわ)に肥(こや)し
手入(ていれ)の行届(ゆきとゞ)き蚕飼(こがひ)上/手(ず)の作(つくり)し種(たね)を求(もと)めて飼(か)うこと肝要(かんよう)なり右等(みぎら)の
土地(とち)に産(さん)する物(もの)皆(みな)上/品(ひん)なり取分(とりわ)け米(こめ)は色白(いろしろ)く光澤(つや)油(あぶら)づき風味(ふうみ)
甘(あま)し大/暑(しよ)といべども飯(めし)にして二日(ふつか)を保(たも)つの性(せう)強(つよ)し野菜(やさい)菓木(くだもの)に至るまで
皆(みな)上/品(ひん)の土産(とさん)自然(しぜん)の性(せい)そなわれば況(まし)てや人力(じんりき)を尽(つく)したる極製(ごくせい)
の蚕種(こたね)は必定(ひつでう)上/作(さく)成(なる)こと疑(うたが)ふべからず近年(きんねん)は本場(ほんば)の偽(に)せ印(いん)をして