翻刻
弱(よわ)き光(ひかり)を斜(のゝめ)にうけて質(しつ)を現(げん)ず其色の緑(みどり)なるは水気|紅(くれない)を帯(おび)たるは日の火気(くわき)也此ゆえに虹をもつて水火の交(まじはり)といへり又|朝(あした)の虹(にじ)は日本にあるがゆへ雨にあらわれ夕(ゆふべ)の虹は日西より照(あた)るゆへ東方にあらわる又雨なくして虹(にじ)を見るは其国|降(ふ)らずといへ共他所(たしよ)に雨気(うき)あるがゆへ也|日中(につちう)はたへて虹なしといへども太陽(たいよう)の下にあたつて一片(いつへん)の濃厚(じやうこう)なる雲まとふ時其水気日光に映(えい)じ暈(かさ)のごとく虹(にじ)の色を日|輪(りん)のめぐりに現(けん)じ暫時(しばらく)して雲|行過(ゆきすぐ)る時に後(あと)なく消(しやう)すること有此水気は暈(かさ)をなすものとは別(べつ)也又|方士(ほうし)|東海(とうかい)にして虹(にじ)のおこる處(ところ)を見て地を掘(ほつ)て見れば紅(くれなひ)の蟲(むし)を得たりと云ことあるによつていよ〳〵|虹(にじ)をもつて虫(むし)に属(しよく)する事とぞ 〇日照(ひでり)|雨(あめ)問て云|晴天(せいてん)にして雨を降(ふら)すこと有しかるに微白(びはく)の雲あり白(しろ)き雲には雨なし黒(くろ)き雲すらうすきものは雨|降(ふら)
ざること有いさゝかなる白(しろ)き雲の晴天(せいてん)に雨をふらす理はいかん答て云|日照(ひてり)|雨(あめ)といへるは元来此方の天にあたつて陰雲(ゐんうん)|雨気(うき)なく他(た)方の雨|霽(はれ)て其|残雲(ざんうん)を吹(ふき)来るものありよつて雨気甚た少く細雨(さいう)をふらし忽(たちま)ち雲(くも)散(さん)じて止(や)むあるひは雨気の雲其うすきもの日|陽(よう)のために照(てり)|乾(かわか)され雨をなすにおよばず直(ただち)に白(しら)け散(さん)じ晴(はれ)たる空(そら)に微雨(びう)をふらして止(や)むものあり其時と雲水の気(き)の厚薄(こうはく)によつてしかりすべて雲は黒(くろ)けれども日光のためにしらけ見ゆるなれば白(しろ)き雲も水気の異(こと)なることなし朝(あした)の空(そら)の黒く見へたる雲も太陽(たいよう)|昇(のぼ)ればたちまちにしらけ見ゆる又|黄昏(くはうこん)|入日(いりひ)の残勢(ざんせひ)を帯(おび)て紅(くれない)を現(げん)ず雲も日|深(ふか)く没(ぼつ)するに至(いたつ)ては今迄(いままで)|赤(あか)く見たる雲|俄(にわか)に黒く紅白(こうはく)ともに日|輪(りん)の光をうつるものなれば雨水(うすい)の気のあるとなきは一片(いつへん)の雲に黒白(こくびやく)を以て見べからず