翻刻
し暖熱(だんねつ)徹(てつ)して弥(いよ〳〵)火を土中(どちう)に貯(たくわ)ふ此ゆへに金石(きんせき)硫黄(いわう)は
いふもさら也|諸(もろ〳〵)の珍宝(ちんぼう)多く火煉(くわれん)に成(な)る金石は火物(くはぶつ)にあらず
其|形(かたち)なりては冷物(れいぶつ)なれ共其産せしむるものは火気|深(ふか)き土(と)
地ゆえ也金と石とをもつて摩盪(まとう)すれば火を出す是其もと
火煉(くわれん)の消(しやう)かより硫黄(いわう)は就中(なかんづく)火に近(ちか)し又土中金石を産
し其気の悪しきものは発(はつ)して中|天(てん)に衝(つき)上り直(ただち)に
火際(くわさい)に感(かん)じて妖火(ひかりもの)をなすあり火煉(くわれん)の物も其地気に随(したが)ひ
それ〳〵の物を産(さん)ずるがゆへに一(いつ)ならず硫黄(いわう)ある所は火気
ふかきがゆへに泉源(せんげん)こゝに経(ふ)るものは湯(ゆ)となつて沸湧(ふつゆ)す
其|温泉(おんせん)にまた剛柔(ごうぢう)の列(せつち)あるものは土気(どき)によつて然(しか)りあく
あるものは暴(あら)くあくなきは和(やわら)か也大がい日本にて温湯(おんとう)出るの
地は攝津国(せつのくに)有馬(ありま)。陸奥(むつ)国|鎌崎(かまさき)。伊豆(いづ)国|熱海(あたみ)。美作(みまさか)国|湯江(ゆのえ)。
伊豫(いよ)国|道後(どうご)。加賀(かゞ)国山中。紀伊(きの)国|龍神(りうじん)。但馬(たじま)国|城崎(きざき)。越中(えつちう)
国山田。相模(さがみ)国|塔沢(とうのさわ)。下野(しもつけ)国|伊香保(いかほ)。越前(ゑちぜん)国|関山(せきやま)。等也|和漢(わかん)
の医書(いしょ)に出る所|温泉(おんせん)はもと金石|硫黄(いわう)の気なれば
気血(きけつ)有餘(ゆうよ)のものは
益(えき)あれども虚弱(きょじゃく)なる
もの共|可(か)ならずと
有は病あつて湯治(とうじ)
せん人は容易(ようい)に
すべきにあらす能ゝ(よく〳〵)
博達(はくたつ)の医(い)について
病の虚実(きょじつ)を明(あき)らかに
し又|温泉(おんせん)にも病
にしたがひ夫(それ〳〵)の土気(どき)
合否(がうひ)あるべく時節(じせつ)