翻刻
ゆへ也狐火と云うも究(きわ)めて是ならん㚑(れい)海集(かいしう)に火に陰陽の分
あり陰火は形(かたち)有て質(しつ)なし故に巨海(こかい)【左・おゝうみ】夜火光あり曠野(くはうや)【左・ひろの】并
燐火(りんくは)あるものこれ近(ちか)つくときはなし是質なき也陽火は
形(かたち)あり質(しつ)あり木を鑽(きり)て火出金石を憂撃(うつげき)して火出るは
能(よく)ものを焚燎(はんりやう)【左・やく】す形質(けいしつ)全(まつた)く満る火なれば也と云
火柱(ひばしら)
問て云火柱と云もの有中天の妖火(ようくは)なりや又|彗孛(すいはい)の類にも
あらじ其|建(たて)る方に火災(くわさい)の懼(おそ)れ有と是何ものぞ
答て云火柱は鼬(いたち)の吹気也とて其|説(せつ)に云鼬は火物也かれ
集会(あつまり)て数百疋其気を吐(はく)とき呼吸(こきう)の息(そく)気立|昇(のぼり)て夜陰
の空(そら)に火をあらわす毎夜かくすることあり田野(でんや)に蛙(わかづ)集
て争(あらそふ)ことあるがごとし是又一|奇事(きじ)也鼬は火陽の物なるが
ゆへに其|群兵(むらがる)方に火柱をあらわし下|火災(くわさい)の応(おう)ありと
然ども奇怪(きくわい)也書に所見(しょけん)なし畢竟(ひつきやう)夏月の妖火(とびもの)中天の怪星(くわいせい)と理同じかるべし
○天狗(てんぐ)
問て云世に天狗(てんぐ)と云
ものあつて怪力|頗(すこぶ)る奇(き)也
深山|幽谷(ゆうこく)に隠(かく)れつねに
人目に見へず高山には
すべて天狗|住(すん)てあるひは
生る人を掴(つん)で数(す)百丈の
谷に投(とう)じ又は樹(じゅ)上に
屍(しかばね)を掛(かけ)などす相(そう)州大山
越中立山。出羽の羽黒(はぐろ)。上
州|妙義(めうぎ)中(なか)の嶽(たけ)。性別|日光(につくはう) 天(てん)
などに至(いた)るところ怪異(けい)の谷 狗(ぐ)