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コレクション: STAGE9

永代惨話 文化の夢 全 - 翻刻

永代惨話 文化の夢 全 - ページ 35

ページ: 35

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べしとありけるに、彼男(かのおとこ)これを怪(あや)しみ自(みつか)ら役所(やくしよ)に趣(おもむ)きて我(わか) 身(み)の死(し)せざる旨(むね)を訴(うつた)へけるに、役人等(やくにんら)は昨日奪(きのふうば)はれし紙入(かみいれ) を示(しめ)し、此品(このしな)こそは其方(そのほう)が物(もの)ならずやといひけるに、彼(か)の男(おとこ) 見(み)てサテハと心付(こゝろつ)き夫(そ)れより昨日(さくじつ)の始末(しまつ)を語(かた)りけるに、役(やく) 人等(にんら)も、そは全(まつた)く盗賊(ぞく)の相果(あいはて)しなるべしとて、彼(か)の紙入(かみいれ)を渡(わた) されければ、彼男そが中(なか)を開(ひら)き見(み)るに金(かね)の額(たか)さへ初(はしめ)の侭(まま)に てありける故彼(ゆゑか)の男大(おとこおほひ)に喜(よろこ)ひ、之(これ)を懐中(くわいちう)して立帰(たちかへ)りしとい ふ(右三話は杏花園の記録)   ○嫉妬(しつと)の蜂(はち) 京橋水谷町(きやうばしみつたにちやう)に材木(ざいもく)を商(あきな)ふ家(いへ)あり、主(あるじ)の名(な)を藤兵衛(とうべゑ)と呼(よ)びけ るがさき程(ほど)より隠(かく)し妻(つま)をもちて、銀座二丁目(ぎんざにてうめ)なる或家(あるいへ)の中(うち) に住(すま)はせ、表向(おもてむき)は手拭等商(てぬくひなどあきな)ふ体(てい)に見(み)せかけて、実は之(これ)を囲(かこ)ゐ 置(お)きたりしが、宿(やど)の妻(つま)のいつしか之(これ)を聞(き)き知(し)りて種〻(しゆ〴〵)心(こゝろ)を注(つ) け、夫(それ)が素振(そふり)を疑(うたが)ひ居(ゐ)ける中(うち)、此度(このたび)の祭見(まつりみ)に彼(か)の女(をんな)と連立行(つれだちゆ) くといふ事(こと)を、いづれよりか聞(き)き出(いだ)して最(いと)も嫉(ね)たき事(こと)に思(おも) ひ何乎(どうか)して妨(さまた)げなさんと様々(さま〴〵)なる工夫(くふう)を凝(こ)らし、扨其当日(さてそのとうじつ) に至(いた)りければ兼(かね)て宵(よひ)より髪抔(かみなと)は結(ゆは)せ置(お)き、早朝(さうてう)より化粧(けはい)し て衣服(いふく)を着(き)かゑ夫(おつと)に向(むか)ひ言(い)ひける様(やう)、今日(こんにち)は久(ひさ)し振(ふり)にて祭(まつり) 見(み)に妾(わらは)をも連(つ)れ立(たつ)て呉(く)れ玉(たま)へ、それとも斯(かゝ)るきたなき者(もの)と 連立(つれたつ)を厭(いと)ひ玉(たま)はゞおん身(み)何卒(なにとぞ)留守居(るすゐ)してたべ、妾(わらは)一人小僧(ひとりこそう) を具(ぐ)して詣(もふ)で来(こ)んと言(い)ひける口上(こうじやう)の、最(い)とも悪(に)くさまに聞(きこ) えけるに、藤兵衛(とうべゑ)も「ムツ」とせしかど強(しひ)て止(と)めなば又口論(またこうろん)に もなるべしと、曲(ま)げてそが言(い)ふ意(い)に任(まか)せ小僧(こぞう)を付(つけ)て出(いた)しや りしは、此日五(このひいつ)ツ過(す)ぎの頃(ころ)なりしと、扨藤兵衛(さてとうべゑ)は女房(にようぼう)に出行(いでゆ)