翻刻
嫡男(ちゃくなん)伊豆守源仲綱(いづのかみみなもとのなかつな)の子(こ)にして伊豆冠者(いづのくわんじゃ)と
号(がう)す源義経(みなもとのよしつね)の婿(むこ)となりて武功(ぶこう)ある事(こと)人の
知(し)る所(ところ)なり義経(よしつね)|奥州(おうしう)|下向(けかふ)の砌(みぎり)跡(あと)を慕(した)ふて
来(きた)りしか道既(みちすで)に塞(ふさが)りて通(とほ)るを得(ゑ)す此山中(このさんちゆう)
に匿(かく)れて時(とき)の至(いた)るを待(ま)つ此事(このこと)早(はや)く鎌倉(かまくら)へ
聞(きこ)えぬれば取敢(とりあへ)す打手(うて)の兵(へい)を向(むけ)られしか
とも嶮岨(けんそ)に支(さ〻)へられ戦(たヽかひ)|利(り)あらずして歸(かへ)る
山中(さんちゆう)に今(いま)戦(いくさ)|茅戦場抔(かやせんばなと)と唱(とな)ふる所(ところ)あれは其(その)
頃(ころ)の古戦場(こせんじやう)なるにや有綱(ありつな)も終(つい)に志(こゝろさし)を得(ゑ)す
當村(とうそん)の字(あざ)|小田(おた)ヶ市(いち)と云(いふ)所(ところ)に於(おゐ)て病死(べうし)す後(のち)
天文(てんぶん)七|年(ねん)神(かみ)に祀(まつ)り有綱神社(ありつなじんじや)と号(がう)せりとそ
却説(さても)源三窟(けんさんあな)の説(せつ)を聞(き)くに三位入道(さんみにうどう)|宇治川(うじかは)
敗戦(はいせん)の時(とき)自殺(じさつ)と偽(いつは)り関東(くわんとう)へ落(をち)て此(この)岩窟(かんくつ)に
潜(ひそ)み匿(かく)れ再(ふた〱)ひ兵(へい)を擧(あぐ)るの志(こゝろざし)ありと按(あんず)るに
入道(にうどう)歳(とし)既(すで)に七旬(しちしゅん)に餘(あま)れり何(なん)ぞ宇治(うじ)に死(しな)す
して汚名(をめい)を殘(のこ)さんや又(また)|入道(にうどう)の三男(さんなん)|宇治(うじ)を