翻刻
見(み)す大沼(おほぬま)は常(つね)に水湛(みづた〱)へて竪(たて)五六|町(ちやう)横(よこ)二|町(ちやう)
許(ばか)り鮒鰻(ふなうなぎ)の類(るい)を産(さん)すと云(い)ふ山上(さんじやう)|魚類(きょるい)を産(さん)
するも亦一奇一(またいつきいつ)は上塩原(かみしほばら)より是(これ)も一|里半(りはん)
余(よ)の山道(さんどう)なれと前(まへ)の二道(にどう)に比(ひ)すれば登(のぼ)り
易(やす)きを覺(おほ)ふ且(かつ)道幅(みちは〲)も稍廣(やヽひろ)くして荊棘道(けいきよくみち)を
塞(ふさ)く等(とう)の事(こと)あるなし此道(このみち)と前(まへ)の二道(にどう)を以(もつ)
て新湯(あらゆ)の首尾(しゅび)を串(つらぬ)く浴槽(ゆふね)は上湯(かみのゆ)。中湯(なかのゆ)。寺湯(てらのゆ)。
貉湯(むじなゆ)。の四坪(よつぼ)硫煙(りうえん)の氣山靄(きさんあい)に和(くわ)して人(ひと)の鼻(び)
孔(かう)を穿(うか)つ故(ゆゑ)に主治中(しゆじのうち)|癬疥(しづ)を尤(もつとも)とす此(この)上湯(かみのゆ)
中湯(なかのゆ)の二槽(ふたふね)は他(た)の湧湯(わくゆ)と異(こと)なり後(うしろ)の方(ほう)は
一面(いちめん)硫黄山(いわうやま)にて處々(しょ〳〵)より硫煙(りうえん)を吹出(ふきいた)す其(その)
洞穴(どうけつ)へ水(みづ)を注(そ〱)き入(い)れ硫黄(いわう)の火氣(くわき)にて水(みづ)を
沸騰(ふつとう)せしめ更(さら)に樋(かけひ)を通(とほ)して浴槽(ゆふね)へ引|入(いる)る
仕掛(しかけ)なれは恰(あたか)も人工(じんこう)温泉(おんせん)のやうに思(おも)はる
都(すべ)て温泉(おんせん)は土中(どちやう)に火石(くはせき)ありて水(みづ)を温(あた〱)め其(その)
水又(みづまた)土中(どちゆう)に含(ふく)みある種々(しゅ〴〵)の鑛物(くわうぶつ)を吸入(きうにう)し