翻刻
(イ)室津港にては碇泊の船舶昼間より警戒怠りなく夜間は篝火或は松明を掲げ非常準備
をなしたりしが港口の西波止場は明治十八年以来あらざる損害を蒙りたり
(ロ)浮津は巨浪高く海浜に打上り浜手なる墓原の石碑は尽く波の為め打ち倒され東のも
のは西に、西のものは東に流るゝ等の有様にて翌廿九日の如きは関係者総出にて撰
り分けたり
(ハ)元村は海浜に引上げたりし漁船十四艘狂風の為め吹き飛ばされ微塵となりたり
(ニ)奈半利村にては波濤高まること三丈に及び岸を越へ陸に上る亦一町余に及び六本松
以東加領郷に至る一里の間は狂浪海岸の人家に侵入する床上約二尺より四尺に及び
実に一の小海嘯なりき夜は暗く且俄かの事とて村民狼狽一方ならず潮水の中老を助
け幼を携へ僅に身を以て免るを得たり
(ホ)安芸町附近は幸に被害少なし
(ヘ)津呂より以東佐喜浜野根甲浦等は旋風の区域を外れたるにや被害なし
(三)香美郡
(イ)赤岡町分にては全倒家屋十七棟半倒家屋十七棟あり岸本村にては全倒家屋十三棟半
倒家屋一棟にして並に損害少し
(ロ)美良布村にては八十余歳の老人当地にて未だ此の如き暴風に逢ひしことなき由を申
せども不思議にも被害は甚少し
(ハ)野市村は全倒家屋二十八軒半倒家四百六十七軒にして其外神社破損山林倒木多々あ
り稲作は平均一反歩につき四斗位の減額を受けたり
(ニ)山田町に於ては倒家又多く伝染病院も全潰し或一家にては老婦圧死し其嫁重傷を負
へるあり
(ホ)上韮生村久保にては下駄職の者大風の為火を失し家族の衣裳に燃へ付きしより女一
人は焼死し男一人は負傷したり
(四)長岡郡
(イ)高須村は国道満潮に浸され往来もなりがたし堅牢なる土蔵造りの倉庫にし風力の為
め破壊傾覆せるものあり満目の光景大震後の有様に似たり
(ロ)稲生村は彼の石灰山の屹立せる為め風力を一方に集注せりと見へ山下の家屋は尽く
破壊せられ非常の惨況なり
(ハ)後免町は家屋納屋の倒れしもの十四軒同神社一軒にして風力の隙間にや損害割合少
し
(ニ)東豊永村は家屋凡五百余戸の中全倒三百余戸半倒は百余戸あり怒田部落の如きは被
害の殊に甚しく同地の重要物産の煙草の如きは恰も菜を塩漬にて揉みたらん如く収