翻刻
獲皆無の姿なり又同部落人民が十余の年精力を尽くして営みたる山中大建築物なる
観音堂も見事に全壊し近傍の大樹小樹殆ど皆一所に倒れ尽せる光景は目もあてられ
ぬ有様なり
(五)土佐郡
(イ)朝倉村木丸神社の馬場先なる歳古く老ひ繁りたる松杉大木は無惨にも大半は算を乱
して横倒し且其社殿の後手なる山林が松樹が其数百株といはず一人の金剛力もて引
裂きたらん如く見事に摧折れの跡をとゝめたには尤無惨なり
(ロ)朝倉四十四連隊営所は縫靴工場傾斜し炊事場の屋根剥げ哨舎は飛んで行方知れず各
舎窓の硝子は全く破られ一号より五号に至るまで兵舎の天井は多く墜落し極めて危
険なりきと
(ハ)大川村寺川は郡中北方の山村なるが吉野川非常に出水にて所々山崩あり押潰され埋
まりしもの十二人あり中二人は即死し他は堀出され助けられしといふ
(六)吾川郡
(ニ)伊野町にては字藤沖と称する紙漉製紙商の多き所尤損害多かりき町中及附近に於て
圧死一人負傷七人全倒家屋納屋百三十棟半倒家屋納屋五十五棟大破害家屋三百五十
棟と聞へし
(七)高岡郡
(イ)須崎町は午後八時過高潮俄然侵入し来り人民は大に狼狽し山上或は他の高処に避難
し堤防外海浜に建設したる家屋は流失したるもの多く溺死三名圧死四名海岸に漂着
したる死屍四名に及び又全倒家屋百十五戸其他建物の全倒百五十一棟半倒七十棟あ
り
(ロ)久礼町は倒家百戸に近く其外波濤の為め払はれたるもの半仆のもの等は殆ど算なく
路上には仆れし家屋建具箪笥長持蒲団など算を乱し積推し一時は往来もなり難き体
なりし又八幡宮の如きは境内の大木周囲一丈にも余れるもの数十株を縦横に捻ぢ倒
し社務所舞殿の棟を破壊し近傍の小社は殆ど仆れて其形を存ぜず
(ハ)高岡村にはこゝといふべきところなけれど一体の損害大に全倒家屋納屋三百九十一
棟半潰家屋納屋百十一棟余に及び救助を請ひ出づる者百三十九軒に及べり
(ニ)高石村是より先き七月九日の大暴風雨にて己に非常の損害を被りしに今回再び災害
を受け其建物中全倒家屋七十六棟半倒五十棟、紙漉場全倒四十棟半倒三十四棟等に
して全村戸数三百三十戸の中目下救助を要するもの八十戸にて此外前日の水害に引
続き小屋掛料の補助上申中のもの十六戸あり特に中島部落の如き総数八十戸の中前
後二回の風水害の為め二十五戸を除くの外は尽く流失全潰となりしは惨の又惨とや