翻刻
やむをまちて薄縁戸板やらの物とり出し外のかたにしばらくの座
を構ふとかくして子の刻はかり又大震れ衆人面色無之終夜揺し
として舩中に座するか如くなれハ手拭もて額をくゝり短夜も一夜
千秋の思ひをなし衆心たゝ暁を待のみ市中ハまた石置屋根
多くゆり落す石雨霰のことく外のかたへ出る事あたはす
廿五日快天ゆれなをやむ時なしおの〳〵空腹に堪へ兼炭火もて
茶を出し怖ち〳〵なから飯櫃とり出てたゝ空腹をふさくのみ
辰の尅過るはかりまた大震れす予此時地上を見るにさなから
荒れ磯に海水の漂ふに異ならすまた前夜に砂水をふき出をる所
を見るに前夜に異ならすそのふき出をる勢ひの 砂水の 深き事弐尺計り
此間文意連続せす壱枚脱落したるか如し
されはけふも終る終夜小ゆりやむ時なし午の刻はかり信州の
変かつ〳〵きこゆれハそのために恐怖を増て家室に入るもの
なし渋紙やうのものとり出竹からみに日覆なんとしてもその日も
暮れぬおの〳〵前夜の疲労を抱くといへとも今宵ハさらにいぬね
ものなく夜にくれハ夜気全身を犯し処を清くニよしなく
鶏の声をかそへ鶏の声をまつに空さへ薄曇りて雨落
からんとすとかして今宵も暁に近し
廿六日快天前夜の堪えかたきに懲りてあり合ふ茅簀板戸
なんともち出日覆のうへにかけそへて露凌かん料に構ふけふ
しも衆心安からねとまたさをる大震もなし巳の刻過る計り