翻刻
山川の戦ひ雌雄を決する事あたはす四月十三日夜つひに巖力
水力にまけて一時に積水を流す川中島辺此災にかゝり死
亡するもの数多し激水めくつて南原御弊川を押す
ある人いふ信州松本地上暑つき事堪かたし竹木の類弐三尺
土中へさせハその先焼焦すかことしまた〳〵火燃出る山もありとそ
廿九日より浅間山の煙絶るむかし山焼けの時もしはらく煙
絶たるよしあたりの人民衆心安からす飯山の変もまた善
光寺に譲らす藩中市中とも家屋ひた潰れ焼亡死人
多し彼地の地形城郭の方高く市中ハ低し此災に
かゝり市中の地形をもち上る事二尺計り城郭却て地中
へ陥り市中より城郭をみ下すに至る犀川の湛水きれて
下流を押す時炮火台の自機發を失ふ松代の藩中竹村
金吾馬上に激流の水先を乗つて積水の変動を本陣へ
告く人伝にきくさへ見る心地をられていさまし
高田城下を去事五里潟町駅ありその豪家小林何某の男四
人連に僕壱人善光寺へ参詣す此変に生死計りかたけれハ村内
機才あるものを選み廿六日早立善光寺へ出立をしむその夜中信
州路へかゝり行くに柏原牟礼ひた潰れにて所々潰れ家のうへ
を往来する処あり潰家下に憔悴したる聲して助け出し呉よと
喚けるもの多しこハ幸ひに潰家下に食を全ふすといへとも出る事