翻刻
あたはすたま〳〵遁れ出るも痴人のことく或ハ浬?なるおのこも家多く
人少なけれハほり穿ち助出さんいとまなきなるへしそれより
荒町善光寺へ入るに十か八九焼亡す焼残る家も皆ひた潰れ
なるに潰れ家の屋根を穿ち一人のもの内入り潰家下を
そこよこゝよと探り廻り穿ちたる穴ゟつき出す死人夥しその
さまあるひハ腰部を打砕かれあるハ手足切れ〳〵なるあるハ全身
血まみれなる異形異類のものを外の方に居るものうけとり
て往還道筋へもち出並へをく事夥しく足のふみ処もなし
さきに持出たるハはや二三人ッゝ菰包にして手近にあり今に焼
草をあつめ所定めす市中におゐて幾所ともなく是を荼毘
又近郷のものと見えて探り出をる死骸を菰つゝみにして三所計り
縛りて結ひ背負ひ行く者多し見るにいふをく魂も消る計り也
廿七日辰の刻はかり善光寺へ着ぬ扨も我尋る者ハ何の何そと
かねて定り居れハそり宿と思しき所へ行見るに焼亡して人なし
側への標札に五丁町何某方仮居とあれハそか方へ尋ね行あるし
に逢ふて事のよしを問ふに我命助りたるのみ家族不残死し
たりとのみ外二いふ事なし痴人のことし現りなる哉此あるし
此頃痴人とその夜近辺へ療行に出もとり来る途中此変に逢ふ
て幸ひに万死を免れたれとも急なん虚弱の旬日腸に迫つて徤冒
のことくなりたる也けり仮宅のあるし親類なれハ問ふに此ものいふ