翻刻
ほし聊か水あるも濁水にて呑事あたはす予ハ外井戸濁水と
なれとも砂なし二三日を経て半清水となる飲水に足らすといへとも
雑水の用に便すけふの大ゆれにまた濁水となりぬ山内氏の井水
此難なしすへて河原町辺大概井水の難あり余ハ井水の難を
聞かす近隣もよりあしきハ川水を汲んで飲水とす酉の刻
また大ゆれ西山鳴動夥し終夜中ゆれ暫時も止ます此夜
家々戸々片時もいぬるものなし一旦活路を得しも今またこゝ
天地渾沌の時にあへるにと衆人死を決するに至る寅の中
刻地鳴して雨ふる卯の刻大風雨此夜一丁通しあり
此度之地震二付居宅の大破難致住居仮小屋手充不行届
面々急雨之節居所無之候ハゝ大手前稽古場并在番長屋之内二而
入込御貸被成候と妻子召連勝手次第可と罷越候以上
右之通御当番ゟ御通二付御通達申候
三月廿九日 御目付中
晦日前夜終夜のゆれ時々山鳴にて衆人面色なき折ふし大風雨
夜あくれとなをやます仮初に造りたをる小屋に大雨もり滴り
床上川の如し小屋うち傘さしかけて凌くといへとも堪へかたし
此節衆人おの〳〵家室に入るをさなから虎穴に入る思ひをな
せハ居宅へ入らんもまた覚束なしとかくするうち空腹また堪へ
かたくやむかたなくて居宅の鍋近に立入朝飯たふへて聊か