翻刻
●大垣町の震災 一震の《ルビ:下|もと》万《ルビ:骨枯|こつか》る岐阜県安八郡大垣町の惨状は此一語を《ルビ:以|もつ》て評す
るの外なし同町は家屋《ルビ:櫛比|しつぴ》し人口も《ルビ:亦|また》二万に下らすして《ルビ:繁昌|はんじやう》をさ〳〵岐阜市にも劣ら
ざる一市街なるに一朝にして《ルビ:全町|ぜんちやう》は郊野と変じ《ルビ:火焔塵埃|くわえんぢんあい》一度に立上りて漠々濛々《ルビ:殆|ほとん》ど
《ルビ:日色|にちしよく》を見す其家屋の倒れたる時は高山の一時に《ルビ:墜落|だいらく》し来りしかと怪しまれ二万の人民
は過半倒家の《ルビ:下|した》に押伏せられ《ルビ:彼|かれ》助かり我出でゝ一人二人と屋外へ《ルビ:這出|はひで》る者甲を救ひ乙
を助け《ルビ:死力|しりよく》尽して救護せしも其内八方より火《ルビ:起|おこ》りて猛火は人と家とを嫌はず焼尽す
べき《ルビ:有様|ありさま》なるにぞ数千の男女が号叫して助けを請ふの《ルビ:声|こゑ》は天に徹し《ルビ:活|いき》ながら焦熱地獄
の《ルビ:苦患|くゝわん》を受け見る〳〵《ルビ:肉爛|にくたゞ》れて焦死する者其数幾百人なるを知らず《ルビ:斯|かゝ》る有様なれば警
官巡査すら一時は《ルビ:我命|わがいのち》を全うせんとして逃げ惑ひ中々人を助くるの《ルビ:遑|いとま》なきも《ルビ:道理|ことはり》にて
急に救護の道も付かざりければ《ルビ:全般|ぜんはん》に救護の手も廻らずして《ルビ:狂|くる》ひ《ルビ:死|じに》に死したるも亦頗
る多く《ルビ:其惨状|そのさんじやう》は筆紙の能く尽す所にはあらずと云ふ《ルビ:右|みぎ》の火災は市街の凡そ七分通りを
《ルビ:焼尽|やきつく》し僅かに其難を免かれたるは《ルビ:市街|しがい》の西部即ち字曲輪町、東船町、俵町、竹島町、
田町等に過ぎず此処すら潰家は《ルビ:猶|な》ほ数多ければ《ルビ:災後|さいご》大垣町に到れば旧城の天守のみ屹