翻刻
れば皆商品と《ルビ:現金|げんきん》とを以て財産とし土地を所有する《ルビ:輩|はい》は実に僅々なりとす故に《ルビ:今回|こんくわい》の
震災に遭遇するや忽ちにして《ルビ:産|さん》を破り財を《ルビ:涸|か》らして亦《ルビ:遺|のこ》す所なく《ルビ:昨日|きのふ》まで金満家よ富
豪家よと《ルビ:呼|よ》ばれたる者も《ルビ:今日|けふ》は貧民の数に入り殊更眼前に迫る《ルビ:飢餓|きが》は彼等が《ルビ:万死中|ばんしちう》に
得たる一生をも奪ひ《ルビ:去|さら》れんとするより《ルビ:郡役所|ぐんやくしよ》に迫りて食を求むる者引きも切らず去れ
ど中等以上の者は《ルビ:如何|いか》に鉄面皮なりとも救助場に立ちて《ルビ:一握|ひとにぎり》の《ルビ:麦飯|むぎめし》を請ふに忍びずと
て《ルビ:甘藷|さつまいも》、《ルビ:蘿蔔等|だいこんとう》を私かに《ルビ:生|なま》のまゝ《ルビ:噬|かじ》りて其日の露命を《ルビ:繋|つな》ぎ居りし者さへありて其惨況
は実に目も当られぬ程なり又震災の《ルビ:時|とき》警部巡査等は圧伏者を《ルビ:救護|きうご》し一方には《ルビ:火災|くわさい》の消
防に《ルビ:従事|じうじ》したれども《ルビ:街衢狭隘|がいくけふあい》にして働き《ルビ:自由|じいう》ならず加ふるに《ルビ:木曽川|きそがは》下流より吹来る風
の手稍や強く《ルビ:井水|せいすい》は一時に《ルビ:涸|か》れて用ふべからざるに《ルビ:至|いた》りしかば《ルビ:見|み》す〳〵全市街九分通
りを《ルビ:焼尽|やきつく》すに至りしとぞ誠に《ルビ:是非|ぜひ》もなき《ルビ:次第|しだい》と云ふべし
●竹ケ鼻町の震災 《ルビ:同郡竹|どうぐんたけ》ケ《ルビ:鼻町|はなまち》は笠松にも《ルビ:劣|おと》らざる《ルビ:惨状|ざんじやう》を呈し家屋七分通り崩
潰し《ルビ:死傷|ししやう》無数此処も亦市街の《ルビ:過半|くわはん》を焼尽せり而して《ルビ:死者|ししや》は其取片付けの《ルビ:出来|でき》ざりし為
め《ルビ:自宅|じたく》に火の付きたるを幸ひ《ルビ:死体|したい》を《ルビ:其儘|そのまゝ》火葬せしあり又宅地に《ルビ:仮埋葬|かりまいそう》を為せしもあり
岐阜県美江寺之惨状