翻刻
但有銭有法(たゝしせにあれはのりあり) 又有怪我命(またけかあれはいのち)
忍飢住御小屋(うへをしのんでおこやにすめよ) 雖飢人不算(かつゑひとゝいへともかそへされは)
徒如向死地(いたづらにしちにむかふがことし) 譬雖潰不悔(たとへつぶれるといへともくやまされは)
唯如計隣無事(たゞとなりのぶじをかそへるがことし) 君子愛地所(くんしはぢしよをあいす)
町人愛職人(てうにんはしよくにんをあいす) 雖入潰掛家(つふれかゝりしいへにいるといへとも)
為無家根人者(やねなきひとのためには) 猶如軒下雨(なをのきしたのあめのことし)
雖出金銭門(きんせんのかどをいづるといへとも) 為慈悲無人者(じひなきひとのためには)
宛如庭中筵(あたかもていちうのむしろのことし) 地震間天地(ちしんはてんちのあいた)
店越配蕎麦(たなこしはそはをくはらす) 親類譬如他人(しんるいたとへはたにんのことし)
庇下猶落瓦(ひさしのしたはなをかはらおつ) 施者出朝夕(ほとこすものはてうせきいたす)
被下食昼夜食(くたさるめしはちうやしよくす) 交食勿諍事(しよくにまちわつてあらそふことなかれ)
己為出施行(おのれかためにせきよふをいたす) 己為配米銭(おのれかためへいせんをくはれ)
人而無住居(ひとゝしてすまいなきは) 決木柱不入(けつしてきはしちいらす)
人而無茶碗(ひとゝしてちやわんなきは) 不異於乞食(おこもにことならす)
現代語訳
しかし金銭があれば法(手段)もあり、また怪我があれば命(の危険)もある。
飢えを忍んで仮小屋に住みなさい。飢えた人といえども数に入れられなければ、
むなしく死地に向かうようなものである。たとえ家が潰れても悔やまなければ、
ただ隣人の無事を数えるようなものである。君子は土地を愛し、
町人は職人を愛する。潰れかかった家に入るといっても、
屋根のない人のためには、なお軒下の雨のようなものである。
金銭の門を出るといっても、慈悲のない人のためには、
あたかも庭中の筵のようなものである。
地震は天地の間(を揺るがし)、
店越しでは蕎麦を配らない。親類といえども他人のようである。
庇の下でもなお瓦が落ちる。施しをする者は朝夕(の食事)を出す。
いただく飯は昼夜の食事である。食事を待って争うことをしてはならない。
自分のために施行を行い、自分のために米銭を配れ。
人として住居がないのは、決して木柱が入らない(役に立たない)。
人として茶碗がないのは、乞食と異ならない。
英語訳
However, if one has money, there are means available, and if there are injuries, there is danger to life.
Endure hunger and live in temporary huts. Even if one is a starving person, if not counted among the living,
it is like heading vainly toward death. Even if one's house collapses, if one does not regret it,
it is like simply counting one's neighbor's safety. A gentleman loves his land,
and townspeople love craftsmen. Even when entering a house about to collapse,
for those without roofs, it is still like rain under the eaves.
Even when leaving the gate of money, for those without compassion,
it is just like a mat in the garden.
Earthquakes shake the space between heaven and earth,
and soba is not distributed over shop counters. Even relatives are like strangers.
Even under the eaves, tiles still fall. Those who give charity provide morning and evening meals.
The rice received becomes meals for day and night. Do not quarrel while waiting for food.
Perform charitable acts for yourself, distribute rice and money for yourself.
For a person to be without dwelling is like a wooden pillar that serves no purpose.
For a person to be without a tea bowl is no different from being a beggar.