翻刻
経廻(へまは)りしがある山|路(じ)にかゝりしに踏(ふみ)まよひて行(ゆく)
べき方(かた)を失(うしな)ひ難義(なんぎ)のあまり高(たか)き峯(みね)に登(のぼ)りて
麓(ふもと)の方(かた)を見渡(みわた)しけれは山間(やまあい)に人家(じんか)の屋根(やね)かすかに
有(ある)を見しかば心悦(こゝろよろこ)ひて草木(くさき)を押分(おしわけ)つゝやう〳〵として
其所(そのところ)に至(いた)り見(み)れは其村里(そのむらさと)に人とては壱人もなしこわ
いかなる事にやと近辺(きんへん)を見廻(みまわし)せば田畑(てんはた)の跡(あと)は茫〻(ぼう〳〵)たる
草(くさ)むらとなり家〻(いへ〳〵)は皆(みな)たおれかたむき軒端(のきば)には葏(むぐら)
なとはひまといれりあやしと思ひなから空敷家(むなしくいへ)に
入て見(み)れは篠竹抔椽(しのだけなどへん)をつらぬき出|其間(そのま)〳〵に人の
骨(ほね)白く乱(みた)れ有(あり)を見て目も当(あて)られすいと物|凄(すこ)く
おぼへけれは身(み)の毛(け)よたちて恐(おそれ)をなしとく〳〵そこを
走(はし)り出人|住里(すむさと)へと心さし路(みち)を尋(たつね)けれともあれはて
たれは其当(そのあた)りには路形(みちのかた)ち堂(た)へし故(ゆへ)大に苦(くる)しみ漸(よふ〳〵)ニ
路(みち)らしきに尋(たづね)あたりとやかくとして人里に馳着(はせつき)はし
めて人|心地(こゝち)となりけりかくあれは奥(おく)の方(かた)の飢饉(きゝん)た
りし餓死(ぐわし)の様子(やうす)は関東(くわんとう)へ聞(きこ)へしよりも直(すぐ)に其