翻刻
其外食物(そのほかしよくもつ)に成(なる)べきものは何によらず兼〻貯置(かね〳〵たくはへおき)
へし食物(しよくもつ)の余(あま)ると不足(ふそく)とは世の中の一大事たるを皆(みな)
人へ諭(さと)したき我念願故(わがねんぐわんゆへ)卯年の飢饉(きゝん)にて極(ごく)〻|難義(なんぎ)
の趣見(おもむきみ)もし聞(きゝ)もせし荒増(あらまし)を書(かき)つゝり世に伝(つた)へ農民(のうみん)を
諭(さと)さん事を旨(むね)として此書(このしよ)をあらはせり心有(こゝろあらん)ん人〻は我志(わかこゝろさし)を
弁(わきま)へ知(し)りて食物(しよくもつ)を貯(たくはへ)る事(こと)を心かけ其意(そのい)を妻子召仕(さいしめしつかい)の
者迄(ものまで)にさとし聞(きか)せ猶(なを)又|他(た)の人|迄(まで)を諭(さと)しなば其(その)人は大善(だいぜん)
事(じ)を行(おこな)ふて我(われ)に於(おい)ゐても悦(よろこ)びのいたりなり
天明(てんめい)二年壬|寅(とら)七月十四日|夜半過(やはんすぎ)江戸并|近国共俄(きんごくともにはか)に
大地震動(おふじしんどう)じて四民居所及(しみんいところおよ)び神社仏閣等破壊(じんしやぶつかくとうはめつ)せり
然(しか)れ共|忽(たちま)ち止(やみ)て諸人安堵(しよにんあんど)の思(おも)ひをなしける処(ところ)に
同十五日の夜(よ)又〻大に地震(じしん)し大地所〻(だいじしよしよ)破裂(わ?)し死亡(しぼう)
する者数(ものかず)を知(し)らす翌朝(よくてう)に至(いた)る迄(まで)十五六|度(ど)も震動(しんどう)
せり相州小田原殊(そうしうおだわらこと)に甚敷城中石垣崩(はなはだしくぜうちういしがきくず)れ塀櫓(へいやぐら)其
外諸屋敷民屋(ほかしよやしきみんおく)とも多(おゝ)く破倒(やぶれたを)す又|箱根(はこね)山所〻
巌石抜落(かんせきぬけおち)て往来塞(わうらいふさが)り海辺(うみべ)は津浪起(つなみおこつ)て人