翻刻
と察(さつ)せられしかば穀物(こくもつ)の直段諸国(ねだんしよこく)一|同(とう)大に上れり
此節(このせつ)まれには米穀(べいこく)を余分(よぶん)に持(もち)し者(もの)も有(あり)しか共(ども)
貯(たくわへ)おくべき思案(しあん)もなく唯目(たゝめ)の前(まへ)に過分(くわぶん)の金(きん)
銭手(せんて)に入をのみ悦(よろこ)びて売払(うりはらい)しかは多分(たぶん)は倉(くら)を
空敷(むなしく)せりかくて日を送(おく)りし程(ほと)に七月になりしかは
雨(あめ)にまじりて砂(すな)をふらし或(あるい)は風につれて白(しろ)き毛(け)
のこときもの此当(このあた)り迄飛来(まてとひきた)れり又|大地(だいじ)の震(ふる)ふ音(おと)
して夜(よ)も昼(ひる)も聞(きこ)へけり是(これ)はいか成(なる)ことやらん不思儀(ふしぎ)
なりとて人〻|打寄言(うちよりいゝ)あへり是(これ)は信州浅間(しんしうあさま)山の
焼出(やけいだ)しにて其火勢(そのくわせい)の轟(とゝろ)き遠(とを)くも響(ひゞ)き渡(わた)りて
聞(きこ)へしに有(あり)けるかくて山の上|煙(けむ)りは空(そら)を覆(おゝ)ひ雷光(らいこう)
夥敷雷(おひたゝしくらい)きびしく鳴(な)りわためき其(その)あたりニ三里
か内とは闇(やみ)と成(なり)て昼夜(ちうや)を分(わか)たず有(あり)しかは灯火(ともしび)
を用(もち)ひつゞけて常(つね)に明(あか)しを消(けす)ことあたわずさて
山上(さんぜう)よりは泥土(どろつち)をふらし或(あるい)は火(ひ)の石(いし)を飛(とば)しつゝ
其震動雷電次第(そのしんどうらいでんしだい)〳〵に弥増(いよまさ)りしかばみな人