翻刻
肝(きも)を消(け)し魂飛(たましいとん)んで夢(ゆめ)の如(ごと)しされ共為方(どもせんかた)なく
て日を送(おく)りしこと七日|七夜(なゝよ)に及(およ)び終(つい)には浅間(あさま)の高(こう)
山裂崩(ざんさけくず)て大水漲(たいすいあぶ)り出(いで)しかは火の石|泥(どろ)土を押流(おしなが)し
其勢(そのせい)ひの恐(おそろ)しさたとへていわん様(やふ)もなく言語(ごんご)に
たへし事共(ことども)也|其上焼石散乱(そのうへやけいしさんらん)してニ三|里(り)かほどに
充|満(みて)りその石砂(しやせき)を降(ふら)せしは廿|里(り)にこへたり中にも
高(たか)サ三|間程(けんほど)に長(なが)サ拾(ぢう)三|間(げん)の大石まろび出たり
かほとの大石たるをだに左程(さほど)の洪水(こうずい)たれば一|夜(や)
の中に押流(おしなが)せし其|道法(みちのり)は十三|里(り)にて止(とま)りける是元(これもと)
より焼石(やけいし)たれば其流(そのながれ)の水も大|熱湯(ねつとう)と沸(わき)かへり
水の中よりしてしはしは煙(けむ)り立(たち)のぼりされは此石(このいし)の上に
流(ながれ)かゝりし物(もの)は草(くさ)も木(き)も忽(たちま)ちにもへ上りこと〳〵く火
となりしを見(み)し人〻|奇異(きい)の思(おも)ひをなせり恐(おそろ)〻
などもおろか也かほとの大石をたに押流(おしなが)せし
事(こと)なれは五|間(げん)や三|間(けん)の石なとは数限(かつかぎ)りもあらは
こそ押出(おしいだ)し〳〵|流(ながれ)かゝりし勢(いきお)ひ故其水筋(ゆへそのみづすじ)の村〻(むら〳〵)