翻刻
郷〻其数都(さと〳〵そのかづすべて)て五十三ケ村一時(そんいちじ)が程(ほど)に押流(おしなが)せり其(その)
家数(いへかづ)は千七百八|拾(じう)三|軒(げん)人は三千七十八人を溺(でき)し
殺(ころ)せり其外牛馬(そのほかぎうば)の類(るい)は数(かづ)を知(し)らす取分(とりわけ)て矢倉村(やぐらむら)
岩木村横尾(いわきむらよこを)村|松尾(まつを)村|河原(かわら)村|等(とう)五ケ村(そん)の水損(すいそん)
と言(い)ふは其地幅(そのちはゞ)十八丁に竪(たて)は壱里半(いちりはん)が程堀(ほどほり)うがたれ
水の深(ふか)サ三|丈弐尺余(でうにしやくよ)を湛へてあらたに沼(ぬま)となりける
是等(これら)の家数人馬(いへかづにんば)の死亡(しぼう)はいまたしれざるよし
申|出(いで)しと聞(きこ)へけり其外杢(そのほかもく)の御番所(ごはんしよ)おも押流(おしなが)しければ
其水筋(そのみづすじ)たる十八ケ村(そん)も水難(すいなん)にて溺死(できし)の人馬(にんば)は是(これ)も
数知(かづし)らざると也|抑此出水(そも〳〵このでみづ)の色(いろ)といふは赤(あか)き事|血(ち)の
如(ごと)く且其泥水(かつそのでいすい)とはいへども大|熱湯堂(ねつとうた)る故(ゆへ)に夫(それ)に
ふれしものは忽(たちま)ち煮殺(にころ)されてこと〳〵く亡失(ぼうしつし)けり
依(よつ)て死(し)を免(まぬか)れべきやうとては堂(た)へて無(なか)りし事也
実(げ)に古今未曽有(こゝんみぞう)の地変(ちへん)とこそ【二文字訂正】言(いふ)べけれ恐(おそろ)し
き物語(ものがた)りなり浅間焼(あさまやけ)の前(まへ)より雨降出(あめふりいだ)しけるか
続(つゞき)キ〳〵長(なが)しけとなれり去(さり)ながら堂(た)まさかには