翻刻
ニ|萬両玄米(まんりやうげんまい)六|萬俵(まんびやう)を町家へ賜(たまは)りて貧民(ひんみん)を賑(にぎは)
し給へり其|御仁恵仰(ごじんへおゝ)くべしまた関東(かんとう)御|郡代伊(ぐんたいい)
奈半(なはん)左衛門に米運送(こめうんそう)御用|掛(かゝ)り命(めい)せられ是より諸(しよ)
国(こく)の米穀追〻入津(べいこくおい〳〵にうつ)して漸(よふ〳〵)に下直(げしき)となりて万民(ばんみん)
始(はじめ)て安堵(あんど)の思(おも)ひなせり
其年(そのとし)六月|渡(わた)りの御|借米(かしまい)七月|迄延引(までゑんいん)して御|役料(やくりやう)は
盆(ぼん)の前後(ぜんご)にかゝれり小|普請(ふしん)の輩渡(ともからわた)り方は七月十日
前後(ぜんご)也十一日には直段(ねだん)大に下落(けらく)スといへとも百|俵(ひやう)ニ付百両也
加之六月十九日には白川の大守(たいしゆ)松平|定信朝臣執政(さたのぶあそんしつせい)
上座(せうざ)之 命(めい)を奉(たてまつり)て法度(はつと)を審にし佞臣(ねえじん)を退(しりぞ)ケ正人を
進(すゝ)め諸士(しよし)の非心(ひしん)を警戒(けいかい)し奢侈(おごり)を禁(きん)じ質素(しつそ)
を行(おこな)ひ廃(さび)れたる文学(ぶんかく)を興(おこ)し絶(たへ)たる武術(ぶじゆつ)を
起(おこ)して文明の政化(せいくわ)を海内(かいない)に施(ほどこ)したまへり天下
挙(こぞつ)て天明の聖代(せいたい)と称(せう)す実(しつ)に此|朝臣(あそん)は慶長以来(けいてういらい)
壱人の良相(りやうそう)たるへし