翻刻
何人(なんにん)の骨(ほね)なる事哉哀(ことやあわ)れといふも余(あま)りあり津軽(つかる)の入口
錠(でう)ケ関(せき)と云(い)ふ所(ところ)は町中に温泉(おんせん)も在諸方(ありしよほう)より湯治(とうじ)人
常〻(つね〳〵)は多(おゝ)く尤繁花(もつともはんか)の地(ち)なり此所(このところ)に一|宿(しゆく)せし時亭主(ときていしゆ)
に此|辺荒(へんあれ)たる事共尋(ことどもたつぬ)ぬるに答(こた)へて此所は家数(いへかず)三
百|軒(けん)の所なりしか大かた餓死(ぐわし)して人の活残(いけのこ)りて煙(けむ)り
を立(たつ)る家(いへ)は終(つい)に八十|軒斗(けんばかり)にして其(その)中に男(おとこ)子は多(おゝ)く
死(し)して今|活残(いけのこ)れるは大かた女|斗(ばかり)也|男子女配合(なんしじよはいごう)して
見(み)るに男壱人に女四人半に当(あた)るといふ夫(それ)より段〻(だん〳〵)
奥深(おくふか)く行程(ゆくほど)に荒(あれ)たる事いよ〳〵|甚(はなはた)しく外(そと)ケ浜通(はまとふ)り
抔(など)にては一|宿(しゆく)一|在所(ざいしよ)一|軒(けん)も残(のこ)りなく皆死(みなしに)たへたる
所(ところ)も甚多(はなはたおゝ)し又たま〳〵一|邑(むら)に活残(いけのこ)れるも漸細(よふ〳〵ほそ)く
煙(けふ)りを立(たつ)る家は二三|軒或(けんあるい)は五六|軒斗(けんはか)り有青森(ありあをもり)
抔(なと)は津軽(つがる)の中にても第(だい)一の大|湊(みなと)にて殊(こと)に繁花(はんか)の
所(ところ)にて遊女(ゆふじよ)町も盛(さかゆ)る所(ところ)なるに其荒(そのあれ)は甚(はなはた)し善知鳥(ウタウノ)【更にひらがなで、「うとうの」】
宮(みや)の辺尤甚敷宮(へんもつともはなはたしみや)も類(るい)廃し悪知鳥(ヤスカタ)【更にひらがなで、「やすかた」】町八百|軒(けん)の
所今は終(つい)に三十七八|軒(けん)の家(いへ)のみ残(のこ)れり《割書:雑説に?話にやすかた丁|家数三千軒斗繁昌の地と有》