翻刻
|滓(カクス)となり浅間の鬼神地獄え生き乍らの人を進め一時
のさい難露まぼろし稲妻の消るかごとし天変目ヲ
驚かし前代未聞及天変なり
一村々田畑泥五尺七尺或ハ壱丈余押うめ其中に火石
ありて焼ること一ケ月余りなり
一是に哀れなるは吾妻川附村々流死人魂魄
残り迷ひして川筋沢辺ニ而泣声あり前夜〳〵の
事なれハ諸寺院において|飯食涬(ほんじきぜう)水をそゝき
|餓(が)鬼どしを供養し木増追善の後|泣(なく)声聞えすとなり
一浅間山のふもとに昔鬼神堂有り慶長元申年
焼失といふ其頃堂に奥州米沢の人と甲州府中
の茂左衛門といふ者此山に登り大風雨|頻(しきり)に吹是非
なく此堂に一夜を明せり四月九日の事なりしが其夜四ツ
時女の形と見えしか|彼(か)の堂へ入らんとするを黒鬼赤
鬼出て表の方へ引出し松の木えしめつけ釘ぬきは
舌をぬきひつしと泣声ありおそろしく又薪をよせ