翻刻
《ルビ:来|きた》り《ルビ:海船|うみふね》の千石二千石の船ども《ルビ:矢|や》よりもはやく
《ルビ:押来|おしきた》り小舟は《ルビ:皆|みな》下に《ルビ:敷|しか》れ《ルビ:微塵|みぢん》になり大船も
《ルビ:共|とも》に《ルビ:砕|くだ》け《ルビ:溺|おぼ》れ《ルビ:死|し》する人おびたゝし其人々の《ルビ:泣叫|なきさけぶ》
《ルビ:声|こえ》《ルビ:耳|みゝ》に《ルビ:満|みち》て気を《ルビ:失|うしな》はんばかり恐ろしく《ルビ:我主人|わがしゆじん》
の船も《ルビ:何方|いづく》へ《ルビ:行|ゆき》しや《ルビ:砕|くだ》けしや《ルビ:安否|あんぴ》をしらざれ
ども《ルビ:尋|たづ》ぬる《ルビ:様|やう》になければ《ルビ:肝|きも》《ルビ:魂|たましい》も身に《ルビ:添|そは》ず足も
わなゝき《ルビ:泣々|なく〳〵》我家へ立帰りけるが此下女常に
《ルビ:志|こゝろざ》し《ルビ:優|やさ》しく《ルビ:主人|しゆじん》の為に身を《ルビ:凝|こら》し《ルビ:平生|へいぜい》《ルビ:台所|たいどころ》
《ルビ:廻|まわ》るの事にも気を付て《ルビ:失墜|しつつい》なき様に心がけ
主人の《ルビ:辛|から》く《ルビ:厳|きび》しきをも《ルビ:恨|うら》まず《ルビ:勤|つと》め居たりしは
《ルビ:隣家|りんか》の人々も知る所也此故にや《ルビ:不思議|ふしぎ》に命を
助かりしなるべし又《ルビ:主人|あるじ》は《ルビ:強欲|がうよく》のみにて《ルビ:神仏|しんぶつ》を《ルビ:尊|たつと》
まず《ルビ:逃|にげ》る時にも《ルビ:神棚仏壇|かみたなぶつたん》の事は《ルビ:露|つゆ》いさゝかも心
に《ルビ:掛|かけ》ず《ルビ:只|たゞ》金銀ばかり《ルビ:大切|たいせつ》にせし《ルビ:不仁|ふじん》の《ルビ:積悪|せきあく》にて