翻刻
等ハ別して潰れおひたゝし抱遊女なとも過半焼死したり中にも三浦屋の家にてハよき遊女を撰
穴蔵江入れ助けんとセしに火入て皆〻焼死すとかや廓内焼亡人御調之高六百三拾余人土蔵一ケ
所焼崩れしまゝ焼残るのミにして家ハ京町壱丁目下之方ニ弐三軒残り大門外五十間道西側
の家残る其外少しも残なく焼亡ひしは実に哀こそ思ハれケり爰にあやうき命を助る人〻ハ
あるましなといひしか誰かれも皆のかれ出て又仮宅の見セをひらき何れもにきワひケる家〻を
見るに姿海世屋松葉屋の両家ハ見えさりケる
見聞録
一云云といふ眼鏡屋に三尺有余の磁石を所持す然るニ彼二日の夜五ツ時頃とかや彼石に吸付置たる
古釘古錠其外鉄物尽く落たるとなん亭主ハ見るより大ニ驚き家強に此石を賣んとは
思ハねとも見世の看板或ハ又珍しく大成故大名衆の目にも留らハ幸ならんと居へ置しも鉄を吸ハ
ねハ只の石也定て多くの年を経たれハ自然其気薄らきたるか大成損も有と心よからす
更而夜の四ツ時の大地震之其後彼石に鉄を吸ハすに元のことくに附に因て大地震ある其前にハ
磁石鉄を吸ハさるを発明セしとの咄しの由是ニ付て或人の地震時計といふ物を造らんとて
図を顕ハすをこゝに写して妙工をまつ 図略
但し磁石に吸付たる鉄釘はなるゝ時ハ釘に付たる線ゆるミ重り下りて車廻り上のりん
を打て人ニしらする機関なれとも其工成就したるニあらさる由なれハ略之也
見聞録
一云云地震の時ハ地中動くにより地脈自ら狂ふ也因て井の水或ハ増或ハ減して常に
替而爰に去年十月二日大震の前なりしか浅草御蔵前ニ福田屋といふ水茶屋の有りケるか
駕に乗て来る人あり轎夫庭を徘徊し少し凹ミたる所あるを何心なく杖にて突に忽ち
清水滾〻と湧出て流れケれハ主人是を見て大ニ駭き立よりて其傍を穿つにいよ〳〵
清泉湧出れハ人〻是を奇也として疑見る者市のことく主人ハ桶の底を抜是を覆ひて
井の如し汲取て茶を煎ると味また異也是を見聞人毎に只不思儀の事也といひて地脈の
狂ひしに心ハつかす然るに夫より四五日を過てかの大震ありし也其後諸方の風説をきくに
或ハ井の水常よりハ近き事半ニ過といひまた遠きこと倍すといふこゝを以て是を思ふに
地脈狂ひて水道の差?る事疑ひなしされハ福田屋の庭中に俄に清泉の湧出しも