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コレクション: STAGE1

安政乙卯江戸大地震筆記 安政丙辰八月大阪大雷雨之記追加 安政三辰年七月松前辺大地震并八月大風雨記録 - 翻刻

安政乙卯江戸大地震筆記 安政丙辰八月大阪大雷雨之記追加 安政三辰年七月松前辺大地震并八月大風雨記録 - ページ 44

ページ: 44

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見聞録 一余か友の知己なる人所用ありて京師へ登りしに嘉永七甲寅之十一月五日帰路にあたり桑名  の海を航りケるに海岸の方を見れハその音ハ聞えねと並松ざハ〳〵と云かことく枝打かハして  動くさま今も大風にやとおもへと海上ハ穏なり故に乗組の者ミないふかりて一同に是を見ニ  俄に沖の方真黒くなり今見し方も見えすなれハこハいかなる怪異ならんと駭き思ハぬ者も  なしその時船長客にいふ様これ必津浪也はや遁るゝに道なケれハ人〻覚悟し給へといふ  彼人聞方大ニ悲しミいかにしてか此難を遁るゝ事あらは教てよといふに船長頭をふり決して  是を脱れかたし天命に任すのミと答へて彼方を佶と見る彼人今は是迄なりと所持セし物  の内いと貴く大切なるを腹に括して覚悟なす折から潮濤〻と鳴たちて逆流のうち返  すと思ふ所に乗たる船底逆流の撃する音してニ三丈船ハ虚空へ閃き居り暫して|摚(ダウ)と  落れハまた逆流に撃せられて居る事初のことくかくする事以上五度船中の人〻ハ皆活  たる心地なく酔るかことく痴なるかことく俯て弥陀観音の名号なと唱ふる者あり程  なく海上穏に成船幸に恙なく向の岸に附ケれハ船中蘇りたる思をなし悦ひあふる限  なしかくて熱田の駅に上り見るにこゝなん大地震にて家は柱なへて揺り崩し  或ハ梁棟に圧れ泣叫て男女の聲耳を貫き膽に答ふさてハこの地震によりて海上  津浪セしものならん思へハ怖ろしかりケるに今此さまを見るに及ひかゝる変異に逢んより  海上に在りし方遥増りし洪福なりきと自分其身を祝しつゝ程近ケれハ熱田ニ詣  て猶行先を祈らんと路を枉てかの社へ詣てケるに不思議なるハその駅より道の程  僅八九町の傍にして宮居少しも損する事なく社壇に捧し燈明の火さへ消る事なかりし  かハ実に神国の貴さ心に銘して感涙をなかし暫時祈念して立去つゝまた元の訳  に出それより次第に下りたるか道筋すへて|淤泥(とろ)を吹出し泥之すへりて歩かたきに  人家ハ一様に倒れ損して食を求る家もなく食るへき方もなし江都まてハまた遠ケきに  いかにしてたとり着んと思へハいよ〳〵心細くて身の力だに抜はてたり左右して漸に飯を  求め夜に成ハ崩残りし家に舎り辛ふして帰府なしケりとそ其道すから難儀セし